第129話 ドンドン下がる


「…事情はなんとなくわかったわ」


 眉間を指で揉みほぐしながら頷く。うん、わかった。わかったわ。


 そもそもの原因は国王陛下が聖女に対する妄執を拗らせて、聖女の末裔である自分の娘も聖女であるなんて持論をぶっ込んできたこと。

 聖女の証として呪いを解かせるため、わざと呪いを送ったこと。それを補助する魔女がいた。

 諫めていた公爵が、魔女の誘惑に負けてお母さんの居場所を突き止めて、勘違いから暴走して流血沙汰を起こした。

 娘に興味のない公爵が私をほったらかしにして、事情がさっぱりわからない私が、陛下と魔女をなんとかしたいスタンと出会った。


 結論。


「全員ぶん殴って矯正すれば解決よ」

「暴力に訴えるな。呪いはどうした」


 モーリス煩い! 呪いのプロがいるのに呪えるわけがないじゃない!


「是非殴って欲しいけど、家族喧嘩で済ませることができた公爵と違って相手は陛下だからね。むしろ血のつながりがあるからこそ殴れない」

「なんでよ」

「僕が陛下を殴ったら反逆だなんだと騒がしくなるから。残念ながら最高権力者を殴れるのは伴侶である王妃くらいなんだ」

「その王妃は何しているの。夫を殴り飛ばしはしたんでしょ」

「殴り飛ばしても懲りない陛下に愛想を尽かせて離宮に閉じ籠もってしまったよ」

「もっと根性出して唸るように殴りなさいよ!」

「殴ることを第一にするな」


 モーリス煩い! 説得なんか二の次よ! まずは相手の反論を折るだけ殴るべき!


 言葉が通じないのだから、言葉が通じるようになるまで矯正しないと。弱い者いじめは悪行だけど、強さで誰かを甚振る奴には知らしめないといけないわ。圧倒的な暴力がどんな味か。

 手も足も出ない恐怖がわからないからそんなことするんでしょ。手も足も出ないくらい滅多打ちにしてやるわ。


 赤く腫れた手で拳を作れば、スタンにそっと降ろされた。そのまま柔らかく手を解される。


「王妃は、陛下の魔女達への扱いにも怒っているんだ。呪いを送らせながら、まるで愛人のように魔女達を囲う陛下にね」

「陛下の株がドンドン落ちていくんだけど」


 今のところいいところ全く無いわよ。


「陛下が愛しているのは王妃だけだけど、魔女達と距離の近い陛下に王妃は嫉妬しているんだ。抗議の意味も兼ねて引きこもってしまった。陛下の愛が王妃にあるのは本当だから、それで焦って事を急いている」

「結果を出して認められようって? 自分の成果じゃなくてエヴァの成果になるのに?」

「愛する妻が引きこもってしまったから、愛する妻に自分の正当性を認めて貰うためにエヴァが聖女である証を立てたい。王妃はきっと、引きこもることで陛下の目を自分に向けたかったんだろうけど…」

「愛より妄執の方が勝っているわね」


 夫にしたくないタイプだわ。


「それで、こんな訳のわからない奴らを、一日でどうまとめたのよ」


 私の質問に、スタンはゆったり笑った。


「表向きは、このままだよ」


 …はあ? このまま?


 私の拳がスタンに向かうときが来た?


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