第120話 親子喧嘩だ!
「メイジー!?」
お母さんの悲鳴が響く。私は気にせず、もんどり打って尻餅をついた男の肩を蹴飛ばして仰向けにして、胴体に乗り上がってマウントを取った。胸ぐらを掴み上げ、もう一発叩き込む。
お母さんの悲鳴が聞こえたけど知らないわ!
「なにをs」ばちーん!
「これはお母さんを追い詰めた分!」
「やめr」ばちーん!
「これはお母さんが苦労した分!」
「まt」ばちーん!
「これは身分差から直訴できなかった庭師の分!」
胸ぐらを掴んで往復ビンタを繰り返す。初動の一発が効いているのか公爵はされるがままだ。
「これはお母さんの足の分! これは私の心労分! そしてこれがこの騒動に対する私からの恨み辛みよ!」
「ぐぁっ! ひゅぐっ! べほぉっ!」
「ジェイラァース!?」
公爵の断続的な悲鳴にお母さんが悲鳴を上げる。
「た、たすけっ」
私からの怒濤の攻めでしっかり動けなくなったらしい公爵は、優雅に窓枠に腰掛け傍観の姿勢を貫くスタンへ震える手を伸ばした。
スタンはそれりゃもういい笑顔で言い放つ。
「何を言っているんだ公爵。これは公爵家の問題なのだろう?」
ぎくりと手が揺れた。
「王族は、親子喧嘩に口だしなど無粋なことはしないとも。思う存分やってくれ」
「ええそうよ、これは親子喧嘩!」
私はカッと目を見開きながら宣言した。胸ぐらを掴まれ、両頬を赤く腫らして、鼻血を出す公爵は温度のなかった碧眼を驚愕に見開き、お母さんそっくりな私を見上げている。
親子だと、血縁者だと、公爵家の問題だとこの男自身が宣言した。
つまりこれは、親子喧嘩。反抗期の子供が親に対して向ける自立のための第一歩。
娘が父親を殴っても無礼にはあたらない! だって親子だから! 家族間の問題だから!
しゃらくせぇ! 親子喧嘩に他人が口を挟むんじゃない存分にやらせろ!
結局暴力かよ呪いはどうしたとモーリスが呟いたけど、家族なら呪う方が非効率。
裁判所などいらないわ!
私は改めて、平手を唸らせた。
ばちこーん!!
「もう止めてメイジー! 誰かぁ! 誰かうちの子を止めてぇええ!」
天蓋の奥でお母さんがジタバタしている。止めにいきたいのにいけない。大慌てでシーツに溺れるような動きをしている。
「うちの子が犯罪者になっちゃう! ジェイラスが死ぬ! そいつ子供のときから私よりか弱っちいから! メイジーが本気になったらやっちまう! それはだめだメイジー!」
知らぬ! 殴る!
ばちこおーん!
「あああああうちの子が怒りに我を忘れている! 目が真っ赤!!」
元からよ!
ばちぃーん!
わあーっと平手の音が響く度に悲鳴を上げるお母さん。そんなお母さんに、麗しい笑顔のスタンが声を掛けた。
「第三者の介入を望みますか?」
綺羅びやかで胡散臭い笑顔だった。
家庭内の問題と断じた公爵家へ、赤の他人からの問いかけ。
公爵の代わりに、公爵夫人が速攻で頷いた。
「望む! 心の底からめちゃくちゃ望んでいるから助けて! うちの子を止めて! うちの子が人殺しになる前に!!」
「聞き届けました。さ、出番だモーリス」
「結局俺かよ!」
暴れる猪を押え付けるくらい大変だったと後に語られた。
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