第119話 つまりこれは、
慄く私に向かい合って、スタンが穏やかにゆっくり語りかけてきた。
「どうやら君は公爵家の人間らしい」
そうね、信じられないことに。
「君の母は公爵夫人で、父親は公爵。つまり君は公爵令嬢だ」
すごい丁寧に確認してくるじゃない。
「全ては公爵家の問題だと家主の公爵が断じるのなら、王家とは言え第三者の私では口出しが出来ない」
…その通りね。家主がそう言うなら、庶民だってそうだわ。実際国家に関わるようなことでもないし、スタンが言っていた魔女の話はよくわからないけど。
公爵の虚偽に関係しているんだっけ? でも陛下が許しているなら、スタンも触れられない、のかしら?
「教育に関する事は、家庭の問題だからね。野暮だから、そこまで口は出せないんだ。だってそうだろう。夫婦喧嘩や親子喧嘩に一々口を出していては、無粋だしきりが無い」
その通り過ぎる。きりがない。
だから、何が言いたいのよ。
私はスタンの空色の目を見返した。
ちょっと楽しそうな顔をしたスタンが、私の反応を待っている。
…何が楽しいんだこの野郎。つまり私達、私とお母さんでこの公爵をなんとかしないといけないって言いたいわけ? そんなのわかって…。
…。
「…私は、公爵令嬢」
「うん」
「これは、公爵家の問題」
「うん」
「スタン…トリスタン殿下は、公爵家の…やりとりに、口出しできない」
「そう」
「よくわかったわ」
よくわかった。
頷いて、私は前に出た。スタンが下がって、モーリスも戸惑いながら下がる。
「メイジー」
天蓋の奥で、お母さんが心配そうな顔をしている。見えないけどわかる。
公爵は、相変わらず冷めた目で私を見下ろしていた。
私が反論を諦めて、公爵令嬢として生きることを認めたように見えたのかしら。本当にお母さんのことしか考えていないようで、私が何を考えているのかさっぱりわかっていない。
当然よね。他人だもの。今夜が初対面。お互い、何を考えているかわからない。わかるほどの付き合いがない。
だけど私達は親子だと、この男が明言した。
つまり。
「くたばれくそ親父!」
「ぎゃ!」
私は正面から、油断しきっている男の鼻面に拳を叩き込んだ。
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