第13話 福音
―――福音。
それは、呪う力。
他国で魔力やスキル、と呼ばれる物の一種。
持って居る人、持っていない人で分かれる力。会ってもなくても生活に支障なく、儀式を介さなければ発動しない力。しかし儀式をすれば確実に誰かを呪うことの出来る力。呪いには種類があり、人を害するものから守るものもある。人を害する呪いを使う者を悪い魔女と呼び、守るために使う者を善き魔女と呼ぶ。
そこまで行かなくても、誰かしらを呪う可能性のある力。
私は福音を持っている。
それを持って居ると、この王都で誰かに伝えた覚えはない。
なんで気付いているんだ…それとも私の目的は、そんなに分かりやすいものだったかしら。
ばれているわ。
スタンに、私の目的がばれている。
動揺から視線を逸らしそうになって、観察する目に踏みとどまる。楽しげな、どう反応するか楽しんでいる人間の目。
イラッとした。
私は椅子を抱え直して、大空を睨み返した。
「福音? …持っているわ」
誤魔化さない。偽れば負けた気がするわ。
スタンは相変わらず、楽しそうに私を見ている。
私、玩具じゃ無いわ。
――不愉快よ。
「あの枝が何か、よく知っていたね」
「…酒場のばあさまに聞いたのよ。でも酒場のばあさまは悪くないわ。私にたくさん豆知識を教えてくれただけ。私が退屈しないようにってたくさんお話ししてくれただけよ」
あの酒場では時々、寝たきりのばあさまの話し相手をさせて貰っていた。
年の功か物知りで、生来のおしゃべりなのか話し相手になると生き生き話し出す。その中に偶然、私が知りたかった情報があった。偶然だけど運命だ。だって私はずっとそれを知りたかった。
でも、やりきる前に見つかってしまった。
それはかなり心残り。
「酒場の…ああ、働いていた所の」
「何の因果だ…あそこどうなってるんだ」
「どうもなっていない筈なんだけどね」
「何の話よ」
「こちらの話。でも酒場のおばあさんが知っていても不思議じゃないね。あれは僕の祖父の代に植えられた木だ。話を聞いていたとしても不思議じゃない」
その世代の人なら誰でも知っていること、なのだろう。箝口令も特に敷かれていなかった。
「当時は騒ぎになったはずだ。あの木は強力な呪いの材料になる木だからね」
そんな木が何故学園にあるのか。
それは学園が国から保護されている場所だから。生徒達を守るように、呪いとして利用価値の高い木も守ることにした。わざわざ中庭の真ん中に植えて、薔薇の迷路で囲って、近付く人間をわかりやすくした。
学生に危険がないのか。呪いの儀式に必要だが、直接の呪いに関係しないので、樹木自身に危険は無い。危険があるとしたら学生達への誘惑だ。
しかし木を使用した呪いは難しく、学生が一朝一夕でできるものではない。樹木に限らず学園内の物は持ち出しを禁止されている。基本的に賢い学生達は、学園外に学園内の物を持ち出さない。
だが学園外から侵入し、わざわざ枝を取りに行くなら話は変わる。
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