第12話 侵入方法とその動機


 元外套男改めスタンは長い髪を耳に掛けながら笑う。長い足を組み直し、高そうな靴の爪先を軽く揺らした。


「僕は妹の願いを最大限叶えてあげたい。でも話を聞いて調べてみたら、相手はどうやら不法侵入者らしい」


 どうやって調べたのかしら。彼女と(推定)ピーター様にしか会っていないし名乗ってもいなかったのに。まさか全校生徒の顔を把握している訳でも無いでしょうに。


「だから身元を改めに来たんだ。果たして妹に直接会わせても大丈夫な人間かどうか」

「…不法侵入者なんだから無駄だって言ってるが聞かないんだ」

「護衛の言うこと聞きなさいよ。まっとうなことを言っているわよ」

不法侵入者おまえが言うな」


 話を振っておいて肯定したら否定って失礼じゃないかしらこの護衛改めモーリスって男。

 身元を改めに来たと言ったスタンはじっと観察するように私を見る。

 なんだこらやんのか。思わず睨み返した。睨まれて楽しそうにするな。


「ちなみに、どうやって学園に侵入したんだい」

「…貴方たちには無理だから教えてあげるわ。学園周辺にある柵だけど、一部壊れているの。子供なら頑張れば侵入できるくらいの隙間があるの」

「子供ぐらい…そこから入り込んだと?」

「無理矢理身体を捻じ込んだわ」

「…よく入り込めたね?」


 スタンとモーリスの視線が私の頭から爪先までを往復する。確かに私は身長もあるし、肉付きもいい方よ。

 でも、小さな穴でも回転しながら行けばなんとかなるのよね。ひねりって大事。身体の硬い男には無理ね。まあ、もっとも。


「胸とお尻が引っかかってもげるんじゃ無いかと思ったわ。服も脱げかけるし大変だった」

「んぐ、」


 モーリスがむせた。

 片手で口元を押えながら横を向いた男に、私とスタンの視線が向く。頑なにこっちを見ない。私はスタンと視線を合わせた。


「この男想像した? あられもない私を想像した?」

「想像しただろうね、むっつりだから」

「これだから硬派ぶっている男は…」

「むっつりじゃない! 急に意気投合するな!」


 モーリスが振り返って怒鳴るが、顔が赤くて全く怖くない。私はあーやだやだ男って、など呆れた視線を投げるがスタンは声を上げて笑っていた。


「むっつりなモーリスは置いておいて」

「むっつりじゃない!」

「頑張れば君も入れるくらいの隙間だ。学園に連絡して修理して貰おう。あそこは有権者の子息子女が通う学園だからね。防犯はしっかり見直さなければ」

「…そうね、仕方がないわね」


 これで私が入れる隙間が無くなってしまうのね。

 …明日にでも行けば間に合うかしら。再度侵入するには間を空けた方がいいと考えて四日経ったけれど、もうなりふり構っていられないわ。


 私はまだ目的を果たせていない。

 あそこには欲しいものがある。

 あの中庭の、大樹の…。


「木の枝」


 スタンからぽつっと落とされた呟きに、背もたれを握る手に力が入った。

 下がっていた視線を上げる。晴れ渡る大空が、ちっぽけな私を見下ろしていた。

 彼は軽く首を傾げて、微笑む。さらりと金髪が肩から落ちた。


「大樹の、木の枝が欲しかったんだろう?」


 何故それを。


 口を開こうとして、言葉を飲み込む。何を言おうか迷って、気付いた。

 スタンは私に「どうやって侵入したのか」と最初に問いかけた。

 確かにそれも気になる点だろう、だけどこういうときにまず問うのは「どうして」ではないか。身元を改めに、メイジーの人間性を確かめに来たのなら尚更。

 どうして、学園に侵入したのか。それをスタンは私に聞かなかった。


「君、福音を持っているね?」


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