第9話 初の詐欺被害
同行を求める男に私が頷くのを見た瞬間、一転して「いつかやると思っていたんです…」と沈痛な面差しになった店長を置いて、私は外套男に安宿の一室に連れ込まれていた。
警備隊の詰め所に連れて行かれると思っていた私は面食らったけれど、外套男がこの部屋唯一の椅子に座り、もう一人は出入り口の前に陣取ったのを見て素早く判断した。
靴を脱いで床に正座。
迷わなかった。逃げ場を封じた男がぎょっとしていたけど気にしない。
そのまま両手の親指と人差し指で三角を作るように床に手をつき、勢いよく頭を下げた。
「サーセンッシタァッ!」
「潔いな!?」
「はははっ」
出入り口を塞いでいる男の驚愕が響く。外套男は楽しそうに笑い声を上げ、指先を顎に当てた。
「さてどんな罰が良いかな」
「アンタもノリノリか!?」
「死刑以外でお願いします!」
椅子に座った外套男に、引き続き頭を下げる。
こっちの方が偉いと察知しての行動だ。配置からしてもこっちの方が実権を持っていそう。安物の椅子に座っているのに気品すら感じる。一向に顔を見せていないのに。
所詮騎士見習いと油断することなかれ。彼らは犯罪者を取り締まる権限を持つ。
「まずは君の話を聞こうか。君、自分が何をしたのか認められる?」
「学園に不法侵入しました」
「本当に潔いねぇ…」
ちょっと呆れたみたいに言われた。心外。悪いことをした自覚はあるわ。だからこうして頭を下げているのに。
悪いことの自覚があるからこそ、誠心誠意頭を下げているのがわからないのかしら。イラッとしたけど本当に悪いのは私だもの。我慢よ。
「神聖な学び舎に忍び込んで大変申し訳ありません」
「うん、それは別にどうでもいいんだ」
「え?」
思わず顔を上げる。外套の向こう側で、相変わらず相手の口元はしっかり笑っていた。
外套男が警備団のバッチを指先で弄ぶ。指で弾いて空中で掴み、指先でくるくる回した。
「そもそも僕らは警備の者じゃないからね」
「えっ、だってバッチ…」
街で目にする警備団のバッチで間違いない。しかし違うと言われたら自信が無い。だって、そこまで近くで警備団のバッチを見たことがない。
描かれているレリーフは、警備団の詰め所に看板があるから知っている。それと同じものが掘られていたはずだ。
…しかし、彼らはバッチを持っていても、バッチを身につけていない。身につけるなら身分の証明になるが、持ち歩くだけならそうとは限らない。
待って、つまりそういうこと? この二人は警備団のバッチを持っているだけで、警備団では無いと? あの言動で?
詐欺じゃん。
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