第10話 人捜しの理由


 私はてっきり、学園への不法侵入がばれたお咎めだと思ったのに。


 …なら、着いてきたのは間違いだ。

 警備の人間なら、不法侵入者を調べて私に行き着いたと理解できる。でも警備の人間じゃないなら、なんで私が四日前に不法侵入したことを知っていたのか。それをこんな回りくどいやり方で、安宿にまで連れ込んで。


 …これって貞操の危機では?


 私は正座から飛び上がって二人から距離を取り、壁に背中を貼り付けた。両腕で身を守るようにファイティングポーズを取った。脱いだ靴は回収されず、三人の真ん中にぽつんと残されている。


「貴方たち、一体何が目的!? 私をこんなところに連れ込んで…乱暴にする気でしょう! 襤褸雑巾のように! 襤褸雑巾のように!」

「襤褸雑巾のように相手を滅多打ちにする気概に溢れた構えの女に言われたくない」

「言っておくけれど、私が自由にできる財産なんて雀の涙ほども無いんだからね! 庶民だもの! 親兄弟のいない天涯孤独な庶民だもの! 頼れる大人なんか一人もいないんだから!」

「これほど力強く天涯孤独を主張する女、見たことがない」

「面白い女性だね」


 外套男に面白いって言われた瞬間背筋を毛虫が這い上がる嫌悪感を覚えたけれど何かしら。


「まあ、落ち着いて。僕らは君を捕まえに来たんじゃなくて、捕獲しに来たんだ」

「何が違うのよ」

「引っ捕らえに来たんじゃなくて、君に会いたいって言う子が居るから探していたんだ」

「は?」


 会いたいって、何故。


 田舎町から王都までやって来て、そこまで知り合いは多くない。だからこそ会いたいという相手に心当たりがないわ。


「君にお礼が言いたいんだってさ」


 余計わからなくなった。

 お礼? お礼参りなら心当たりはあるわ。

 訝しげな私に、外套男は初めて顔を隠していた外套を降ろした。


 零れ出る、絹糸のような金髪。肩に当たってたわんだ形から、先端を緩く束ねているのがわかる。涼やかな夏空色の瞳は優しげな垂れ目。口元は相変わらず微笑んでいて、ちょっと悪戯っぽい笑顔の似合う、美しい青年の顔が露わになった。


 なんか、キラキラした顔が出てきた。

 予想外の美しさに一瞬意識が遠のいた――――が、お腹に力を込めて堪えた。


 美形だから何よ負けるもんか。目をつり上げて相手を睨み付けると相手は楽しげに笑った。面白がられていると分かるけど、それすら美しい。成程美しいって罪ね。イラッとするわ。

 その男性的で美しい唇から、言葉が続けられる。


「僕の妹が会いたがっている――…恋を叶えてくれた君に」

「は?」

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