第7話 片想いのじれったさ


 なんだそんなこと、というのは簡単だけど、ハンカチを落として泣いてしまうほど本気で恋をしているのだろう。見るからに品行方正な優等生、上品で優雅、規則を破ったことがなさそうなお嬢様だ。恋のおまじないだって悩みながらも手を出したに違いない。そんな一大決心の品をうっかり落としたとなれば、か弱い女の子は涙の一つ零すだろう。

 隣でぷるぷる震えるお嬢様。お貴族様だけど、庶民同様恋に翻弄される乙女だ。


 なるほど確かに悪者はいない。

 私ってば早とちり。

 泣くより探しに行きなさい! と思うけど、心が折れていたら探しに行く元気もないわね。いつどこで落としたのかもわかっていないみたいだし。


「言いにくいことを言わせてごめんなさいね。私ってば勘違いしていたわ」

「いいえ、心配してくださったのはわかっています」

「でもよかれと思ってイヤな思いをさせるのは良くないことだわ。ごめんなさいね」

「…貴方はとても、真っ直ぐな方ですね」


 両手で顔を隠していたお嬢様が、小さく顔を上げて笑う。今更ながら見るからに庶民な私に対してこの扱い。無礼者ってぶったたかれても文句を言えない行動をしているというのに、このお嬢様は心が広すぎる。一応わかっているのよ。私ってばいつもやりすぎるから。反省しているわ。

 でも後悔する前に行動すべきだと思うのよね。


「恋のおまじないをするってことは、片想いね」

「へぅっ!?」

「私、片想いの人に必ず勧めるおまじないがあるの」

「え? でも恋のおまじないは禁止されていて…」

「【ハナミズキのハンカチ】をするならできるはずよ」

「え、え、なにを?」

「好きって言うの!」

「それはおまじないじゃなく告白です!」


 わっとその場のテンションが上がった。


 二人しかいないけど、沈静化しかけた場が再度盛り上がった。勢いって大事よ。


「そ、そんなことできませんわ!」

「なぜ? もしかして相手はただの顔見知り? まずは名前を覚えて貰うところからだったりする?」

「い、いえお友達で、その、ちゃんと認識されて、あの」

「お友達なのね。ちゃんと挨拶をして会話が通じてお互いに不快にならない距離感なのね」

「わ、わたくしはそうですが相手がどうかはわからなくて」

「わからなくて当然じゃない。わかるのは自分が相手を好きってことだけよ」

「はうっ」

「まどろっこしいのよ片想い!」


 相手との距離感に心を揺らし、あの人が私をどう思っているかしらと寝る前に考えては不安になり、相手の視線の先が気になったり言動に振り回されたりもしかして思っているより好かれているのではと自惚れては落ち込む片想い。

 それが良いのだと経験した人は語る。第三者も語る。そんな様子を見てほっこりする人、身悶えする人、たくさんいるのはわかっている。

 だが敢えて言おう。


 ――まどろっこしい!

 まず、好きって言いなさいよ!

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