第4話 女の子が泣いている!
女の子が泣いている。
女の子が泣いている!
私の中に冷静なメイジーと本能のメイジーが現れた。
(―――私はここに不法に足を踏み入れている。だから誰にも見つかることなく、目的を達成して立ち去るべきよ。だから気になるし可哀想だけど、泣き声は無視するしかないわ)
冷静なメイジーがそう告げる。しかし本能のメイジーは違った。
(―――うるせえ! 知るか! 女の子が泣いてるんだぞ! そんなの見過ごせるか!)
因みに冷静さと本能は1:9の割合。勢いよく天秤が傾き片方の皿が地面に叩き付けられ、掲げられた冷静さは反動で飛んでいった。冷静さなど無かった。おほしさまきれい。
「誰に泣かされたの!」
「ひゃぁ!?」
トップスピードで駆け出した私は泣いている女の子の正面に回るなどまどろっこしいことをせず、大樹の真横を突っ切ってベンチの背を掴み、身を乗り出した。背後から急に現れた見知らぬ人間に、すすり泣いていた女の子が飛び上がって咄嗟に振り返る。振り返った拍子に目元から涙が散った。
…まるで星空を閉じ込めたみたいにキラキラした目と視線がぶつかった。
振り返った反動でふわりと靡いた宵闇の髪が白磁の頬を縁取り、柔らかく甘い曲線を描く顎先を涙が滑り落ちていく。星空のような瞳を瞬かせ、愛らしく可憐な女の子は驚愕に固まっていた。
詰め襟の、首元までしっかり覆い隠す水色のワンピース。なんて言うのかしら、この手首の部分が膨らんで、かつきゅっと締まる袖。リボンで調整されていて可愛いわ。スカートには白いレースが重ねられて、私ならどこかに引っかけてしまいそう。このレース、白バラじゃない?
刺繍もだけど立体的に縫ったり編んだりする技術、どうなってるの? 私ってば真っ直ぐ縫うことも均等に編むことも難しいのだけど。こんな上等なワンピースを学園に着てくるなんて、やっぱり価値観が違いすぎるわ。こんなの村長の娘だって年に1回の誕生日会でも着られないわよ。
…そんなことよりも。
私はキッと眦をつり上げた。ポケットからハンカチを引っ張り出して、彼女の目元に押し当てる。安物のハンカチはゴワゴワしているが、ちゃんと洗った清潔なハンカチだ。きっと私は今使うために持っていたに違いない。いつ使うの? 今でしょ!
「こんなに泣いて、誰に虐められたの。特徴を教えてくれたら私がすぐに仕返ししてくるわ!」
「え、え、え?」
「安心して、地元では私の報復の恐ろしさから弱い者いじめをする奴は駆逐されたから。大人達は私が弱い者いじめをしていると思っていたけれど! 心外よね!」
「え、あの、どなた…?」
「通りすがりの学生よ!」
「そ、そうですね…?」
学生よ! 今だけね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます