第3話 突撃! チャンル学園!


 今から四日前、私は入念に調べ上げたチャンル学園の侵入経路から学園内に侵入を成功させていた。


 チャンル学園。それは、お貴族様達が通う学校だ。


 庶民も試験を受ければ通うことができるが、そもそも勉強をしたことのない庶民ばかり。余程のことが無い限り、庶民がチャンル学園に通うことはない。精々商人の家くらいだ。

 幸いな事に生徒達は制服ではなく私服で通っていたので、私も何食わぬ顔をして紛れることができた。


 それでも服装から生徒ではないとバレかねない。見破られては厄介なので、なるべく見つからないように行動しなきては。私は生徒が歩いていてもおかしくない時間帯に侵入し、目的の場所まで隠れて進んだ。

 私の目的地は、学園の中庭。一際大きな木のある庭園。

 それにしても、人が多い事を覚悟していたのに、思ったより人が居ない。もしかして授業時間かな。だとしたら失敗した。見回りの警備員に見つかれば、授業に参加していない事を咎められてしまう。


(おかしいわね…そうならないように、危険は承知で休み時間を狙ったんだけど…)


 まあ、居ないなら居ないで構わない。見つからないように行動するのに変わりは無いし。

 ちょっと急ぎ足で中庭に足を踏み入れて、その広大な庭園に圧倒された。

 学園内だとは思えないほど整えられた庭。目線の高さまである迷路のような薔薇の生け垣。彫刻のように整えられた木々。その中央に力強く存在する、桃色の花を咲かせる大樹。


 あれだ。

 あれが欲しい。


 目的を前にして自分が高揚するのを感じる。勢いよく中央突破しようと足に力を込めて…流石に薔薇の生け垣に突っ込むのは良くないと、爪先を横にずらして庭園の迷路に足を踏み入れた。

 庭園の生け垣の迷路は、迷わせることを目的としていない。中央の大樹へと辿り着くよう内側に内側に進むようになっている。真っ直ぐ進むより時間は掛かるが、その分美しい薔薇を観賞出来る仕様になっていた。時間を掛けてゆっくり鑑賞することを前提とした作りはお貴族様らしくて優雅だ。

 薔薇に用はないけれど、これだけ見事だとなけなしの乙女心が刺激される。手入れが行き届いていて、私のような庶民は滅多にお目にかかれないほど美しい薔薇だ。他に目的がなければうっとり眺めていたに違いない。後ろ髪引かれる思いで薔薇の生け垣の迷路を抜けた。


 その先にあったのは、桜色の花を咲かせる大樹。

 その大樹を鑑賞するように生け垣側に設置されたベンチが複数、円く小さな広場に広がっていた。

 繰り返すが、学園の中庭とは思えない。おしゃれな公園みたいだ。


「思ったより大きい…」


 ほわーっと大樹を見上げた。

 見上げた先で…大樹の向こう側に人影が見えた。大樹の根元にあるベンチに腰掛け、こちらに背中を向けている人影が。


 しまった、目的地に人が居るなんて運がない。

 どこかに隠れて、移動するのを待つか…。


 なんて思っていた私の耳に、くすんと女の子のすすり泣く声が届いた。


 女の子の。

 女の子の泣き声が。


 瞬間、大樹の向こう側にいる人影の認識が邪魔者から女の子に変換された。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る