第23話 霊を明晰夢に引きずり込んでぶち殴る ①

 ある夜。私は父の運転する車の助手席に乗り、夜道を帰る夢を見ていました。この夢には見覚えがあります。第6話で見た夢と同じです。


 暗い川沿いの道を走っていると、右側に学校が見えてきます。以前はここで夢が終わってしまいましたが、今回は違うようです。


 車はそのまま学校に近づいていきます。すると、校門からランドセルを背負った子供たちが出てきました。


「右から来てる」


 私は父にそう言いましたが、父はそのまま車を走らせ、無言のまま、その子供たちをはね飛ばしました。


「こんな時間に小学生が下校すると思う?」


 父の言う通り、子供たちは風船のように軽く飛んでゆき、車にも何の衝撃もありませんでした。


 と、そこで目が覚めました。いまいち、意味の分からない夢です。私は無意識のうちに、このような交通事故が起きることを予想、または心配しているのでしょうか。そんなことを考えていたその時。


 金縛りです。同時に、嫌な予感がします。


 ガサ。


 予感的中。いつものビニール音が、下の階から聞こえました。前から度々思い出しては疑問に感じているのですが、なぜ「霊」と呼ばれているものはビニールのような音を出すのでしょうか。ネットで調べたところ、同じような音を聞いている人が他にも居るようです。本能的に何か連想するものがあるのかもしれません。


 その考察はひとまず置いておいて、私はその霊とやらには何の用もないし、呼んでもいないので、そんなものが視界に入ってきても困ります。さっさと帰ってほしいので、今回は金縛りも無視して再び眠りにつくことにしました。


 夢が始まります。また同じ夢です。私は父の運転する車の助手席に乗り、夜道を帰っています。そしてまた、車は学校に近づいていきます。しかし、何か妙です。


 今までとは違う空気を感じ、父の方を見ます。――首がありません。父の頭部、首から上が切り落とされたように消えています。断面は真っ暗闇になっていて、それが物理的な切断ではないことを物語っています。


 前を見ます。三人の小学生が、こちらを向いて立っていました。車はそのまま突っ込んでいきます。しかし。


 あと数メートルで衝突するというところで、一瞬、彼らの顔がはっきりと見えました。両目と口があるはずの部分は真っ暗闇になっていて、口は耳まで割けるように開いています。


「魔物か」


 以前、心霊番組で人間の形に似た異形のことを「魔物」と呼んでいるのを聞いたことがあります。正確には違うかもしれませんが、ひとまずここでは魔物と呼ぶことにします。


 よく見ると、背中の辺りから触手のように黒いものが伸びています。月明かりで伸びる影も明らかに異常です。このまま衝突するのはまずいと感じた私は、いつものように強く目を閉じ、夢を終わらせました。


 ガサガサガサガサガサ……

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