第20話 未来視か、デジャヴか、気のせいか

 小学生の頃の体験です。


 ある日の朝、私は目覚めると、天井に背をつけるような形で床を見下ろしていました。床の方では私の肉体が眠っているのが見えます。つまり、いわゆる「体外離脱」をしているような状態です。


 そのまま見ていると、頭上から足音がします。そして。


「ほら起きて! 可愛い犬が出てるよ! 見な!」


 母の声です。次の瞬間、私は天井を見ていました。


「さっきのは夢か」


 そう思いながら体を左側に転がしてうつ伏せになり、両手をついて起き上がり、テレビの方を見ます。テレビには白い犬が映っていました。顔も手足も小さく、耳は垂れ気味で、ふわふわとした毛並みの犬――ポメラニアンです。


「まあ可愛いけど騒ぐほどでもないな」


 と思った次の瞬間、私はまた、天井を見ていました。どうやらここまでが夢だったようです。その後、起き上がってテレビの方を見ましたが、内容は何の関係もないものでした。


「何だったんだろう」


 少し疑問に思いましたが、特に気にすることもなく、その日は何事もなく終わります。そして次の日の朝。私はまた、天井に背をつけ、床を見下ろしています。


「これ、昨日も見たな」


 そんなことを思っていると、


「ほら起きて! 可愛い犬が出てるよ! 見な!」


 やはり、母の声です。


 昨日と同様、体を左側に転がしてうつ伏せになり、両手をついて起き上がり、テレビの方を見ます。テレビには昨日の夢で見たのと同じ、ポメラニアンが映っています。


「やっぱり同じ犬だ」


 そう思ったところで、違和感に気づきました――こちらは、現実です。


 昨日は母の声を聞いて目を覚まし、起き上がるところまでが夢でしたが、今日はどうやら、母の声で目を覚ますところからは現実の出来事だったようです。


 テレビに映る犬は昨日の夢と同じように動き回っています。


「気のせいかな」


 世の中には白い犬などいくらでも居ますし、犬の動きと聞けば大体似たようなものをイメージするはずですから、当時はデジャヴか、気のせいくらいにしか思っていませんでした。


 しかし、もしもこれが「未来視」という能力の芽であったなら? 今頃の私はもっと優雅な生活をしていたことでしょう。当時の私は興味を持ったことは何でも試していましたが、残念なことに、興味のないことは試しもしなかったのです。実に残念なことです。

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