第18話 ベビーカーから抜け出せずに死ぬ夢

 小学校高学年くらいの頃の悪夢です。


 このくらいの時期はまだ幼少期の頃の夢を見ることがありました。ただし大半は悪夢です。そしてなぜか現実ではなく、夢の中で金縛りに遭うことがよくありました。


 その日は買い物の帰り道です。私はベビーカーに乗せられ、母と帰宅しています。まだこの時点では夢であると気づいていません。


「あら――さん?」


 いつもの坂、という設定の坂を下り始めた時、誰かが母に話しかけてきました。カチッ。ベビーカーをロックし、母と誰かが話し始めます。


「それでね、私も――」

「そうなの? 信じられない!」


 どのくらい時間が経ったか、夢の中であるというのに、眠気を感じて何度も視界がぼやけたのを覚えています。その時。


 カラカラ。何かが転がるような音。初めは、雲の動きが妙に早いと感じました。しかし、直後にこのベビーカーが動いているのだと気づきます。


「あっ……あ……」


 うまく声が出せません。そうしている間にもベビーカーはどんどん坂を下っていきます。と、その時。


「あ」


 こちらが夢であると気づきます。しかし、同時に金縛りです。


「この坂が帰り道じゃないと気づくことが、金縛りのトリガーだったのかな」


 悠長にもそんなことを思います。実際はそんなことはないでしょうが、所詮は小学生の知能です。金縛りの原因や破り方について考えているうちに、飛躍した仮説を立ててしまうこともありました。


「でも、うちなんかは――」

「まあ、いいじゃないの」


 母とその話し相手は全く気付いてくれません。せめてまぶたを閉じることさえできれば、この夢を終わらせることもできるのですが、金縛りが解ける気配はありません。


 ベビーカーはもはや、誰にも止められないほど加速しています。目を瞑りたいのに、金縛りのせいで目を閉じることすら許されない。このままいくと突き当りの壁に激突してしまう。壁は見る見るうちに迫ってきます。自然と、全身に力がこもるのを感じます。その時です。


「んっ」


 一瞬、体が自由を取り戻します。しかし――


「ははははは」

「ははははは」


 ガン。残念ながら、間に合いませんでした。全身から水が抜けるような感覚と、全身が冷え切っていく感覚。夢の中で死ぬときはいつもこんな感じです。二人の大きな笑い声を聞きながら、私は死んだのです。


 ですが、今回は何の収穫もなかったわけではありません。金縛りは力で破れる(こともある)、ということが分かりました。それから私は金縛りに遭うたび「どの部位なら動きやすいか」「どこから動かすべきか」を研究するようになったのです。

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