第17話 聖母、あるいはそれに類する何か

 私は自称悪魔の他にも、神秘的(?)なものと出会う体験をしたことがあります。


 ある夜のことです。


 夢を見ている途中、現実の、肉体の方で何かの気配を感じました。その直後、まぶたの向こうで光を感じます。夢は中断され、まぶたの裏にある暗闇が戻ってきますが、その暗闇が見る見るうちに白い光に飲み込まれていきます。


 やがて視界は真っ白になります。本来、まぶた越しに光を見る場合、自身の血液の色が透けて赤く見えるはずです。つまり、この光はまぶたの内側、あるいは脳内の視覚を司る部位で発生しているのでしょう。


 あまりの眩しさに、反射的に目を閉じようとしてしまいますが、既に目は閉じています。目を閉じているのにそれでも眩しくて、さらに目を閉じようとしてしまうのですから、とても不快です。


 なんとか抵抗しようと布団や手のひらで目を覆いますが、やはり変わらず、太陽を直視しているような眩しさを感じます。


 そんな時です。全身が暖かく感じはじめました。同時に、眩しさが耐えられる程度に和らぎます。


「わたくしの、子供たちよ」


 女性の声が聞こえます。とても優しい声です。どのような声が優しいのかと言われると難しいですが、とにかく「優しい女性の声」と聴いてイメージするような、ああいう声です。


「わたしくの愛する子供たち、天使たちよ、それはあなた方のことなのです」


 まるで私以外にもこの声を聴いている人間が居るかのような言い方です。


「人間の知能では理解できなくても、全てのものは、計画されて存在するのです。あなた方も美しく、輝いてください。分からないからといって、殺し合わないでください」


 なんとなく宗教的なニュアンスを感じる言葉遣いです。昔の人はこういうものを神託と呼んだのでしょう。確かに、何かに言い聞かせられているかのような、自然と納得してしまうような、妙な感覚になります。


「いくら魔の手に落ちたとはいえ、わたくしの可愛い子供たちが、わたくしに向かって剣を突きつけて来たとき、わたくしには彼らを切ることなど出来ません。どんなに悲惨な姿になっても、わたくしの大切な子供だからです。わたくしの深い悲しみはそこにあります」


 話が変わりました。ただ、正直なところ、この辺りの話は完璧に記憶しているわけではありません。なので、あくまで「そういう内容のことを言っていた」という意味で書いていることをご了承ください。


「わたくしは今、愛しい子供たちに束縛されています。わたくしには受け入れることしかできない。けれど、忘れないで」


 光がまぶたから遠ざかっていきます。


「宇宙の長い歴史から見れば、人間の命は一瞬の煌めき。けれどその一瞬が、永遠とも言える宇宙の方向性を創るのです。みな大きいのです。繋がっているのです」


 気配は完全に消えました。目を開くと、部屋は真っ暗でした。あれは一体何だったのか。


「もう少し薄暗く現れてくれないかな」


 暗順応を待つ間、そんなことを考えていました。一度起き上がり、水を飲んでから布団に戻りましたが、その日は眩しさのせいで目が冴えてしまって、しばらく眠れませんでした。

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