第11話 言霊か、偶然か、必然か ①

 小学校2年生の頃の話です。


 クラスにNさんという問題児が居ました。Nさんは人や物をいつも乱暴に扱っていて、私はそれがとても嫌でした。


 ある日、私はそのNさんに腕を強く引っ張られ、筋を痛めてしまいました。怪我自体は大したものではなかったと思いますが、当時の私にとっては経験のない痛みです。その恐ろしさもあって、Nさんへの恨みは日に日に強くなっていきました。


 私は誰にも聞こえないように、呟きます。


「Nが痛い目に遭えばいいのに」


 後日。その日は「町探検」という授業の日でした。その名の通り、学校の周辺を担任の先生と数名の保護者付き添いのもとで歩き回る授業です。


 しばらく歩いて、折り返し、学校へ戻る方向へ歩き出した頃。事件はそこで起こりました。


「先生ぇ! 挟まっちゃった!」


 突然、Nさんが悲鳴を上げて先生を呼んだのです。見てみると、そこにはブロック塀を崩した後のゴミでしょうか――コンクリートの塊から鉄筋と思われる棒が飛び出したものが転がっており、Nさんは上を向いて飛び出しているその鉄筋にすねを突き刺していたのです。


 話を聞く限り、Nさんはそのブロックを飛び越えようとしてバランスを崩し、すねを突き刺すような形で鉄筋に突っ込んでしまったようです。


「何やってんですか、バカったれ!」


 先生は慌ててNさんの足を引き抜き、Nさんを連れてどこかへ行きました。残された私たちは、保護者たちに連れられて学校へ戻ったような気がします。帰り道、保護者たちが小さな声でNさんのことを話しています。


「あれ一生傷になるよね」

「棒に肉ついてたよ、怖っ」


 もちろん私たちもNさんの話で持ちきりです。


「挟まっちゃった、じゃなくて刺さっちゃっただよねー」

「Nはバカなんだよ」

「やっぱりあの人おかしいんじゃない?」


 皆もNさんには恨みがあるのでしょう。不満を爆発させるように悪口を言い始めます。


 教室へ戻ってしばらくして、Nさんと先生が戻ってきました。どうやら病院へ行っていたようです。傷口は何針か縫ったようで「泣いて暴れて大変だった」「何を考えているんだ、このバカが」と先生は怒っていました。


「自分のせいなのにね」

「いい気味」


 子供は残酷です。私も怪我をさせられていますから「罰が当たったんだろう」と思いましたが、それでもまだ、この恨みは晴れないままでした。

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