第9話 SNSで知り合った人の本名を明晰夢で視た
幼少期は悪夢ばかり見ていましたが、歳をとるにつれて、悪夢よりも明晰夢を見ることが増えてきました。
明晰夢といっても、夢の内容を全てコントロールできるわけではなく、無理にコントロールすると翌日に疲れが残ることもあるので、特に悪夢的な異常がない限りは夢に従うようにしています。
そんな私ですが、数年前から度々、明晰夢の中で奇妙な人名の一覧を見るようになりました。
ある時はテレビに、ある時は本を開いたときに、いつも決まった名前が大体同じ順番で書かれている。特徴的なのは、初めは全て理解不能な記号のようになっていて、意識を集中すると、モザイクが消えるように読める文字に変わることです。名前の見え方は下記のようなイメージです。
ア$ &#ヒロ
*ミ@ト ※ン¥ロウ
ナ+トウ ケン£
タド¢ロ カズト
クドウ (解読不能)
そのような夢を何度か見たある日、奇妙なことが起こりました。
ある日、SNSで知り合った人物と会った日のことです。その人、Bさんとはとても相性が合い、初対面とは思えないほどに話が弾み、本名や職業まで教えてもらい、別れ際には「次はもっと遠くに遊びに行こう」なんて誘ってくれたほどです。
そして充実した一日を過ごし、帰りながらBさんに連絡を入れたのですが……奇妙なことに、その時点でSNSも連絡アプリも全てブロックされていたのです。
その時点でも既に十分怖いのですが、問題は後日です。
その日の夢も明晰夢でした。いつものように起き上がり、庭に出て、植物の世話をする夢です。特に異常性が見られないので、夢に従うことにしました。よく見ると、庭の植物たちは枝の伸び方が違っていました。
「明晰夢でもさすがに樹形までは再現できないのか」
と思っていると、視界の端から、ある人物が現れます。Bさんです。頭上を見ると名前が表示されています。
「*ミ@ト ※ン¥ロウ」
以前から度々、明晰夢の中で見ていた名前のひとつでした。当然、Bさんから聞いた本名とは全く違う名前です。
「明晰夢のくせに、名前まで間違えるとは」
そんなことを思いながらも、まもなく夢は終了します。
目覚めた後、そもそもこの名前は何なのかと、少し疑問に思いました。夢とは本来、自身の記憶を整理する過程で生じるノイズであるはず。つまり、どこかでこの名前を見ていて、それが夢に出てきているのだとしたら、これは一体誰の名前なのか。
そこで、私は実名制のSNSを開き、「*ミ@ト ※ン¥ロウ」と検索してみました。すると、出てきたのは――
Bさんでした。
顔も、住んでいる地域も、趣味も職業も全て一致しています。紛れもなく、間違いなく、明らかに、Bさんは「*ミ@ト ※ン¥ロウ」です。
唯一違うのは名前だけ。あの時、本名だと聞かされた名前は、本名ではなかったということでしょう。なぜ私に偽名を教えたのか、その心理は理解できません。
ただ、それよりも気になるのは、そのBさんの本当の本名を、私がいつ、どのように知ったか、というところです。
単なる潜在記憶、すなわちクリプトムネジアのようなものなのか。あるいは何か超常的な原理が働いてそのようになったのか。
明晰夢の世界でのことを「事実」に含めるのはおかしいかもしれませんが、「事実は小説よりも奇なり」とはまさにこのことだな、と思いました。現実に起こる出来事のなかには、巧みに作られた小説よりも奇妙で不思議なことがあるものです。
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