第2話 マチルダ・スタンガースン
マチルダ・スタンガースンが医務室に入ると誰もいなかった。
この学校の保険医は初老の女性で、生徒達の間では何かと口うるさいと煙たがられていたのでマチルダは少しホッとした。
彼女がいたならば追い返されていたかもしれない。
マチルダは持っていた鞄を床に置きベットに座る。朝から着けているマスクが欝陶しい。
時計に目をやると授業の残り時間は半分を切っていた。
今日は朝から気分が落ちつかない。指先もいつもより冷たい。心と身体のバランスが取れていない。そんな感じだった。
授業中の校内は静かで、ここはそれに輪をかけて静寂な空間だった。
マスクを取り、上着を脱いでバックの中の服に着替える。
そして身体をベットに倒し軽く目を閉じる。
何を考えるでもなくそうしていると、ふっと――幼なじみの顔が頭に浮かんだ。
──テリー・プライス。
マチルダにとって最も古い友人で、物心ついた時にはいつも隣にいた少年。
家族同士が友人である二人は昔から何をするのも一緒で、お互いがお互いの半身であるかのように過ごした。
彼は自分が教室を出る時に心配そうな表情でこちらを見ていた。
心から自分の身を案じているのだろうと彼女は分かっていた。
いつも優しいテリー。
彼の事を考えると気分が少し楽になった。
幼い頃は毎日のように、スクールに通い出して他に友達が出来てからも週末はほとんど一緒に過ごした。
アンソニーと出会ってからは三人で遊ぶことが増えたけれど、マチルダにとってテリーは特別な存在だった。
いや、ハイスクールに上がった今も特別な存在には変わりはない。
だからこそ、彼の事を思い出しただけで落ち着くのだろう。
そんな思い出ともいえる感傷に浸っている時に事件は起きた。
突然の激しい爆発音にマチルダはベットから跳び起きた。
部屋全体が大きく震え、薬品棚ががたがたと揺れた。
置いていたバックを手に取り、急いで廊下へ出る。
医務室を出た廊下の奥、二階への階段がある辺りに煙が充満している。
爆発の起きたのとは反対側にある階段から多くの人が下りてくる足音と声が聞こえてくる。
マチルダはその人波に巻き込まれるのを避けるように、廊下を爆発の起きた方へ走った。
自分の教室へ向かうにはこちらの方が近い。それだけの理由だ。
テリーの事だけを想い、ただひたすら走った。
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