シモ

【シモ】

夢であってほしいなと思った。

かなしばりなんだなって。

でも違うんだよな。

何も見えない。全身が動かない。縛られているのかな。

こんなの、夢でも現実でもどっちでも最悪だ。

コツコツと、靴の音が聞こえる。誰かいる。見えないくせに、僕は顔を音のする方向へと向いた。 

「お、起きたのかな?目隠ししてると起きてるか分かりづらいな」

あのおじさんだ。僕に身体検査をしたおじさん。そしてなぜか僕を待っていたおじさん。

「Bに会いたい」

なぜ唐突にこんなことを言ったんだろう。でも、最初に思った言葉がそれだった。

「おそらく、会えない。君はもうすぐ、国のために死ぬ」

「国のため?」

「ああ。君が死ねば、大勢が生き延びることになる」

「なんで?」

「はぁ……」

おじさんは、まるで洗濯物や食器洗いをするような、やりたくないことしなきゃいけないように、重く息を吐いていた。

「お前を、敵国に落とす」

「なんで?」

なんで僕はこんなに冷静なんだろう。あの男がナイフで脅してきた時は、あんなに焦っていたのに。

諦めがついているのかな。

「敵国は、こちらの国を攻撃すると、内密に決定した。奴らは、基地を国境ギリギリに建設し続けた。常に非難はしていたが、十年。とうとう、定期的にしてきた基地づくりの期間が空いた。もうすぐ攻めるつもりなんだ。だからその前に、国ごと壊滅させるんだ」

「何言ってるか全然わかんない。頭ぽやぽやする」

「ああ、さっき麻酔をかけたからな。まだ効力が残ってるんだろう。会話は出来ているようだから、もう少ししたらハッキリするぞ」

「わかった」

「そういえば、30代くらいの男性に何か言われていないかな?車を運転していた」

「わかんない」

「そうか」

Bの怖い顔を思い出した。そうだ。僕はBに助けてもらったんだ。

「ねえ、Bはどこ?ここはどこなの?」

「Bはおそらくこちらにやってくる。車が動いていたからな。このことを知る奴らは、ここで一斉に死ぬのだ」

「ダメだよ!なんで死ななきゃいけないの!」

「国民の未来のためだ。この歴史は、爆発とともに消えるのだ」

「爆発?」

なぜ唐突にその言葉が出てくるのか、さっぱりわからなかった。

脳みそはほとんど回復して、僕が今どんな状況で、こいつが何をやろうとしているのか、だんだん見えてきたような気がした。

「敵国に僕を落とすんだ。それで、僕は爆発する」

「気づくのが遅かったな。情報屋に聞かされてないと知った時は、自分の頭にひれ伏しそうになったよ」

「そこで伝えるつもりだったの?」

「いいや?あいつは人間だ。人間は、人間じゃなくすことができる。道具、玩具おもちゃ、そして兵器にも。私の作った布に、一本いらない糸が混じったようなものさ。だがそれはアクセントとなる。あいつは人間だから、葛藤が生まれるだろう。だから想定範囲内。一本に絞れない奴は、迷って動かないでいてもらったほうが安全なのさ」

僕には、何一つ言っている意味がわからなかった。ただこいつが、とんでもなくやばいやつということだけはわかった。

「明朝。君を敵国に落とす。Bのためにも、自分の命を犠牲にしてくれ。頼む」

服の擦れた音がした。見えない僕に向かってお辞儀をしているのか。

「いいよ。でも一つだけ聞かせて」

「なんだ」

「僕のパパとママは?僕はどこから生まれたの?」

「はぁ……昔話は嫌いだよ。これを思い出すと、私も人間になってしまう」

「教えて」

「お前のパパは私だ。そしてママが敵にやられた。お前が生まれた次の日だった。ひどく明るかったよ」

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ルールのない人 小南葡萄 @kominamibudou

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