少女 ブライアン・メイデューの記憶 2
白かった景色が少しずつ赤くなっていく。ここにいる全員が、狂気の目をしていた。
逃げなきゃ。死んでしまう。
うっ。背中をから押し倒され、どうにか体をひっくり返すと、またがっていたのはさっきの金髪の女だった。
「あなたここ初めてでしょ?」
ザン。
そう言いながら私の首すぐそばにナイフを突き刺してきた。私の長い髪が裂かれ、飛び散る毛は私をパニックに陥れた。
「きゃあああ!!」
悲鳴をあげると彼女はバックし、私をただ見つめていた。まるで私の動向を楽しむように、ただバグったおもちゃを眺めているように見えた。わかっていても、私の心臓がいつもより速いスピードで生きようとしている。死にたくない。死にたくない。
私はナイフを振り回しながら彼女をひたすら追いかける。後ろにも目が着いているのか、ツインテールを揺らして、華麗にステップを刻みながら、血迷った私を眺めていた。
五分、ひたすら彼女を追いかけたが、ずっとニヤニヤした顔を見せつけてくるだけだった。
「つかれた?ねぇ、つかれた?」
手を後ろに組み、可愛い女の子を演じる彼女の目には乾いた優越感が密集している。そのせいで、瞳孔に全く輝きがない。
「つかれてない!」
本当は疲れてる。もう走りたくない。だけど、殺さなきゃ、殺される。その考えが、私の奥底で、根っこを生やし始めていた。
ダメだ、でも、ダメ、でも。
心はとっくに枯れ果てていた。どうにか体を動かしていたが、棒になった脚が、ポキっと折れるように膝を曲げ、跪いた瞬間。
ドゥン。
と私の顔が爆発した。すぐにもう半分が床に打ち付けられ、私のナイフが飛んでいってしまった。
痛い、痛いよ。
「B選手!ドロップキックが決まったー!痛かった?ねぇ?痛かったかって!」
うあっ、ぐっ、あぁ!
「痛い?痛い?」と聞かれながら、彼女は私の腹を蹴り続けた。なんで私だけ、なんでみんなこいつを襲わないの?
「誰か!助けて!誰か!」
「助けを呼んで何になるんだよ。ここは自分以外、全員敵だ。周りのガキも!変な服着た大人も!ここのボスだって!全員殺すんだよ!なあ!今日は一人死ねばいいんだよ!なあ!死ねよ!」
とっくに私の心は死んでいた。なのに、脳と心臓が動いて、痛いという気持ちを全身にめぐらせていた。
そしてまた金髪の子は私にまたがり、
「お願い。死んでよ」
私の目尻に、小さな雫を一つ、落としてきた。
私だってこのまま死んでしまいたい。でも、死ねないのだろう。いや、自分を殺せばいいのか。この子のために、だって彼女が泣いていたから。私はナイフを持った彼女の手を取り、自分の首に突き刺さそうとした瞬間。
ファーーン。
とまたトランペットの音が部屋に響いた。
「一人、死亡しました。今回は、殺人です。ルールを破ったお友達がいます」
見ると、さっきボロボロだった肌の黒い男の子が倒れていて、その横では色白の男の子が、両手で血が垂れたナイフを持ち、ナイフの先から膝の先まで、全身を震わせていた。
カダンと、さっき入った扉から防護服を着た大人がアサルトライフルを持って、まっすぐ彼の元へと歩いてきた。
「嫌だ!ごめんなさい!ごめんなさい!」
彼は尻餅をついて懇願していたが、大人は銃口を男の子に向けた。
「次は絶対にしませんから!本当にごめんなさい!お願い!お願いします!」
と土下座をしながら、全身で生きようとしていた。しかし数秒後、銃声の連打と共に、彼の声は聞こえなくなってしまった。
「お疲れ様でした。お部屋に戻りましょう。お並びください」
今聞くと、だいぶ機械的な声だと思った。
「今日は人を殺しちゃいけない。だからあの子は殺された」
「は……?え?」
さっきまで私を追い詰めていた金髪の女の子が、真面目な顔をして話しかけてきた。
「じゃあどうすればよかったの?って聞いて」
「じゃ、じゃあ、どうすれば、よかったの?」
「あなたが私にされたみたいに、心を追い詰めればいい。そしたら、さっきのあなたみたいに、自分から死のうとする。でも、今回は殺しちゃったみたいね。そんな心の弱い子は、死んで当然よ」
でも、殺さなきゃ、殺されるかもしれない。根っこを生やしていたこの気持ちが、私の中で芽を出した気がした。
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