少女 ブライアン・メイデューの記憶

【少女 ブライアン・メイデューの記憶】


私はある日、綺麗な施設に送られた。築一年未満なのかどうかは知らないが、とにかく綺麗な空間だった。そこには植木鉢と、簡易的なベット。私は白いTシャツに半ズボンを履いていて、そして目の前に見えるのは檻だった。

「ねえ」

壁から声がする。近づいて手を当てると、微かに振動を感じられた。

「誰?」

「うふふ、私はB。ABCのB。あなたの名前は?」

「ブライアン・メイデュー」

すると急に、白かった空間が赤く照らされ、体の奥から全身にかけて、激痛を感じた。体を抱きしめて抑えようとしても、身体中が小さく爆発し続ける。ようやく止まると、床は私の唾液だらけになっていた。

「ごめん、聞こえなかった。名前を教えて」

「ブ、ブライアン・メイデュー」

また全身に激痛が走る。痛くて痛くて、「あああああ」と声を出してしまうほどだった。声は体と一緒に震えていて、内臓が口から飛び出てしまうのかと思うくらいの痛みだった。

私が痛がっている間に、壁の奥からは笑い声が聞こえていた。奥の人が意地悪をしたんだ。

「ごめーん、お名前聞かせて」

「うるさい!死んじゃえ!」

「ひどーい。私ここの中じゃ結構えらいんだけどなあ、そんな口聞いて良いのかな?」

「ご、ごめん」

「名前、言ってみなよ、もう一回」

「いや、嫌だ」

「言えよ」

「嫌だ!」

「ふーん。いじめちゃお。みんなであなたのこと、いじめちゃおっと」

いじめるという言葉に、私は心の中で、強く反応してしまった。突如パニックに陥ってしまい、檻に捕まって「ここはどこ!おうちに帰して!」と奥の壁に向かって叫ぶ。すると、目の前にモニターが現れた。細い首を持ったモニターがこちらまで顔を伸ばし、画面が光ると、そこには倒れている両親の姿があった。二人とも、首から血を出して死んでいた。

「嫌!いやああああ!」

小学生の私には、とんでもない苦痛だった。そして脳みそが錯乱する中、「この子をお願いします」と言うお母さんの声を思い出した。そして大金を受け取っている景色を。そうだ。お母さんは私を売ったんだ。

そんな絶望に打ちひしがれていると、檻の前に、白い防護服を全身にまとった人が、銀色の器にパンとスープと水をが入ったトレーを下から流してきた。

「ここはどこですか?おうちに帰してください!」

防護服は私を無視した。檻の隙間から顔を突っ込んでよく見ると、トレーを隣の意地悪な女の子にも渡していた。

「その子!私に意地悪してきたんです!やめさせてください」

「どういうことだ」

とこもった低い声が防護服の中から聞こえてきた。

「なんのことでしょう。さっぱりわかりません」

「そうか」

そのまま、ご飯を持ってきた防護服の人は、遠くへと行ってしまった。

「待って!待って!」

すると、奥から細い手が出てきて、私に向かって中指を立てた。私も中指を立て返したが、なんの反応も示さずに、その手は引っ込んでしまった。

私は、手を合わせて

「いただきます」

と言った後、パンをスープにつけ、一口食べる。ただのパンとただのコーンスープと言うような、何も感じない素朴な味だ。すぐに食べ終えて、それでもお腹が空き、

「すいません、おかわりください」

というと、また隣から笑い声がして、

「何言ってんのこの子、バッカじゃないの!」

と私のことをケラケラ笑い続けた。私は悔しくって、涙を流しながら、スープの入っていたお皿を、鉄の味がするまで舐め続けていた。

延々と舐め続け、涙の塩っけさえも、味として感じようとしていた。すると急に電気が消え、部屋が真っ暗になってしまった。そして何かプシューとスプレーの音がして、アルコールのような匂いが鼻に入ると、だんだん瞼が重たくなっていき、私はそのまま倒れてしまった。

ガタン。わっ。いきなり電気がつき、私の目の前には、ナイフが置かれていた。私の手には少し大きなナイフで、腹のあたりはギザギザしていた。

そしてまた唐突に扉が開き、デカい銃を持った防護服の人が、「出ろ」と低い声で命令してきた。恐る恐る、私は部屋から出ると、目の前には気をつけをした私と同じくらいの子供たちが同じ服を着てまっすぐ同じ方向を向いて並んでいた。

ふと思い出し後ろを見ると、あおい目をした金髪でツインテールの女の子が、私を見ながらニヤニヤしていた。

あいつだ。このナイフなら、殺せる。そう思って振り向いた瞬間、ゴンッ。

痛い!

私は防護服の人に、蹴飛ばされていた。檻にぶつかりまた全身を打ったような衝撃が、次は外から襲ってきた。

「並べ。早く!」

その声に脅され、私は急いで並んで、みんなと同じ気をつけのポーズをした。

「全体!進め!」

すると皆一斉に歩き出し、私も、恐る恐るついていく。前の肌の黒い子を見ると、包帯が巻かれていて、切られたようなカサブタが見えていた。よく聞くと、どこかで鼻を啜るような音が聞こえる。そして、さっきの檻が何かにぶつかり響く音が、後ろからも聞こえていた。ここは一体なんなのだろう。私はどうなってしまうのだろう。不安に殺されそうになりながらその気持ちをナイフに込めて、列の一員として歩いていた。

三分くらい歩いたところで、さっきと壁は変わらないが、どこか開けた場所へと辿り着いた。皆がまた列を組んで並んでおり、私もおずおずと列に揃う。

皆、生気の無い顔をして、無心で何かを待っているような顔をしていた。

「皆さん。広がってください」

と言う女性の声をしたアナウンスが部屋に響くと、間隔をとって、列が広がり始めた。

広がり終わると、次は

「今回は、殺しは禁止です。一人が降参するまで、争いあってください」

ファーンというトランペットの音が響いたあと、さっきまで綺麗に並んでいた列が一気に乱れ、血を噴くカオスへと変貌してしまった。









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