最悪な夢、本当はもっと最悪な現実

【シモ】

また夢を見た。

手のひらは酷く熱いのに、腕から先が冷えているような、嫌な感覚だ。

そして目に見えているのは、地下の練習場で、サンドラの腕が誰かから離れていく光景だった。

バタっという音と共に、振動がだけ少しこちらに伝わってくる。

サンドラ、どうしたの。一体誰に。

力が出ないから、声も出せない。

サンドラを倒した影が、ゆっくりと立ち上がり、どすっどすっと床を踏み締める足音に、聞き覚えがあった。

B?

でもこんなところいるはずがない。

見上げると、そこにいたのはBに似た、血で出来たような怪物だった。

「ゼブラぁ、探したよー。あれぇ、髪の毛、銀色だったっけ」

奴は、僕の髪を持ち上げて、血を飛ばしながら、赤黒い肌から黄ばんだ歯を見せて笑っていた。

「あはははははは」

「い、いやだ」

「イヤダァ?そんなこと言う子じゃないでしょ?」

怪物の顔が急接近して、顎を掴まれ、僕の口を食い始めた。

舌を押し込められて、舐められ、吸われ、唇を味わわれる。

僕は動けず、奴は無抵抗な体を散々好き勝手した後、持ち上げられ、宙ぶらりんになった。

口内に受けた刺激で、少し、意識が戻った。手が焼けるように痛い。怪物から離れたいが、抵抗できない。

怪物の肩が僕のみぞおちを定期的に食い込んで苦しい。一度、体が急降下すると、次は胸と脇が絞められて痛い。怪物は、僕を持ち上げたまま止まった。

「いてぇ、超いてぇ」

エレベーターか。ああ、頭がぼやぼやする。この怪物に殺されちゃうのか。最悪だ。Bに会いたい。

ガタンと衝撃が伝わり、前から傷に冷たい風が当たる。そして風の先からは、黄色い悲鳴が聞こえた。怪物と、ボロボロの僕が目の前に現れたら、そりゃあびっくりするか。

「B!シモから離れろ!」

B?Bじゃないよ。ダグラスは何をいってるんだ。少し回復して、周りがはっきり見えるようになると、僕はゆっくりと怪物を見上げた。

「やっぱりこいつがシモか」

怪物じゃなかった。Bがいる。顔が血だらけで、目を血走らせて、髪の毛をぐしゃぐしゃにしている真っ赤なBが、僕を担いでいたのか。

「抵抗するならば、こちらも撃つしかないんだ!」

「良いの?撃って。絶対シモにも当たるけど」

とBが僕はをまた勢いよく下ろして、次は首を持ち始めた。苦しい。唯一動く左手が、俺の体を持ち上げている腕を掴んで、離そうとしていた。首元に何か当たった気がする。この感触、覚えてる。ナイフだ。B、やめて。

「ダグラス様、撃ちますか?ご命令を」

という重装備のデカい銃を持った声に反応したのか、僕の首を握る手が少し強くなり、急にBが僕に向かって声を張り始めた。

「ねえ、シモ!シモって死んだらどうなると思う?」

「やめろ‼︎」

ダグラスの叫び声が、ビルの中をこだました。

「じゃあ、そこをどきな。私たちはお家に帰るからさ」

ガチャガチャガチャと、無数の装填音が聞こえてきた。

「だからどけって」

すると、地面がドォォンとうなりを上げた。震源地はここ、Bの足音だ。直接、振動が体に伝わった。

「殺すぞ」

その声は、普段僕に言ってるようなセリフとは、比べ物にならない殺意を感じた。まるで無数の人間を殺したことのあるような、確実だと確信させる殺人予告は、軍人ではなく、僕に向けられていた。一斉に銃が降りた音と共に、頭から熱が消えていきながら、僕の左手も落ちてしまった。また、目の前が真っ暗になる。

僕はまた担がれたのか。体が揺れていく。

「くそおおおおおお」

ダグラスはまた、張り裂けるような声を出していて、その振動が、背中まで伝わってきた。

「ねえ、Bなの」

グラグラと頭を揺らされ、朦朧とした意識の中、心の奥に眠っていたBに会いたかった気持ちが、勝手に話しかけていた。

「そう、Bだよ」

「僕は、死んだらどうなるの?」

「僕?一人称僕だっけ」

意識がだんだん、揺れるたびに、落ちていく。

「天国に行くんだよ。私は絶対地獄だけどね」

はなればなれは、嫌、だな。

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