決着

【サンドラ】

「やめて!」

目尻が破れそうになるほど、私は目がかっぴらいてしまった。あのBが、私に対して命乞いを始めた。

「やだ。し、死にたくない」

情けない。Bは今まで敵なしだっただけに、死ぬ瞬間はこうも無様なのか。

十二分。抗い続けられだが、勝敗は、見るからについていた。

尻もちをついて、後退りしているBは滑稽で、同時に信じられない気持ちになってしまう。

私が、Bに勝ったんだ。

毛頭負ける気などなかった。ゼブラ様をお守りするためなら、命をお捧げするつもりだった。

しかも相手はB、死ぬ理由としては申し分ない。

それなのに今、Bは私の前で涙を流して命乞いをしている。やっと、私が、頂点に立ったんだ。

はやる気持ちを息と一緒に飲み込み、私はBの最後の言葉を聞きにいった。

この気持ちはなんだろう。

彼女が逃げるたびに、私の想像していたBが鏡が割れるように無くなっていく。

Bは壁にぶつかり、迫る私に怯えながら、血と一緒に涙を拭っていた。

だんだん高揚していた気持ちが収まると、ああ、次に押し寄せたのは、裏切られた感覚だった。

勝利宣言をしたかったが、気分じゃなくなった。

自分のナイフを背中にしまい、Bから奪ったナイフでBの顔を指しながら、目線を合わせるためにしゃがみ、そっと語りかけた。

「なぜ、ゼブラ様を取り返しにこられたのですか?」

Bは目を抑えながら、震えた声で喋り始めた。

「だって、大好きだから。ゼブラが、私の全てだから」

私はつい、ため息をついてしまった。これはBに対する同情か。まあ、動機は本当だろう。

Bは、ゼブラ様の実態を知らないはず。ならば、本物の愛だ。私は、持ち直すために一瞬ナイフを下ろし、

「あの人はゼブラ様ではなく、シモ様とおっしゃるんです」

と、冥土の土産を言った刹那、

「やっぱりね」

Bは急に私に飛びかかり、ナイフを持った腕を掴まれ、腕を踏み潰された。右膝で体を固定され、右手では私の首を締め始める。

しまった。こんな意地の悪い方法に、してやられた。

「こっ、こいつ」

「見てなランちゃん。本当の蛇っていうのは、油断させきってから仕留めるんだよ」

足を支点に起きあがろうとしても、抑えられた身体が言うことを聞かない。

デブが、どうにか両腕を掴んでも、パワーが完全に負けて離すことができない。

ゼブラ様が奪われる。ゼブラ様。

見ると、ゼブラ様が目を開けて、絶望的なカオスを見ているような、目の色を消して、驚いた表情をしていた。

終わったな。お互い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る