メイド服のハイエナ
サンドラは、私が最後にぶっとばした時より身長が伸びて、少し綺麗になっていた。私はすぐに、ナイフを取り出して死体をふみつけて彼女のところまで走った。
サンドラの可愛いフリフリのメイド服にに対して、今の私は警備服が血塗られた野蛮人だ。果たしてどちら悪だろうか。ずるい、あの美貌を切りたい。私はナイフを下から振り上げると、サンドラは昔みたいにちゃんとナイフで受け止めてくれた。
やっぱり。
視界の隅には、私が探していた大事なゼブラが、狩人に射抜かれたシマウマのように、手首を抑えて倒れていた。血を流して、苦しそうな顔をしている。ふと同じ体制だったダグラスを思い出し、その次にサンドラとの訓練の日々を思い出した。
【B、S。相手が銃を持っていて打たない場合は、銃だけを撃ちなさい。これで何回目だ。】
「よそ見なんて教わりましたっけ?」
サンドラは私のナイフを弾き、目をスライスしようと、一瞬離れた刃が肩を軸に左から右へと近づいてきた。わっ。条件反射で首をしまい、刃先が私のまつ毛に触れる感覚と共に、言葉通り目の前を通り抜けた。落ちるナイフが目尻に少し当たり、ドパッと熱が吹き出す。
痛い、だがサンドラが大きく動いた反動で、高い鼻が近づいてきた。私はここぞとばかりという顔でナイフを腹にに突き刺すような大ぶりの動きを見せて、サンドラが私の手首を捕まえる場所を見てナイフをピタッと置き、刃に触れてサンドラが握るのを拒んで油断したところで、左手に拳を作り、私は綺麗な顔を思いっきり殴った。
一瞬狼狽えたが、殴る方向を見て、合わせるように首をを曲げたのが見えた。だからそこまで効いていないはずだ。
曲がった顔がくるっと元に戻って、二歩下がると、今度は逆手に切り替えた。
つまり本気モード。いつもこれで調子が狂うんだよな。そんなこと考えている場合じゃない。早くゼブラを助けなきゃ。ゼブラから目線をそらし、サンドラを見た瞬間、殺意の高い眼差しに胃が一瞬引っ張られたような焦りを感じた。相手が悪すぎる。死んだら終わり。
次はしっかり殴るために、私は力強く手汗を握る。すると、早期決着を図ったか、サンドラはナイフを構え、私の首を掻っ切ろうとしてきた。隙ありすぎ。その瞬間にサンドラのナイフを下に避けながら腹を刺したが、服の中にあったのは肉ではなく防弾チョッキだった。こいつもかよ。
そしてまたフラッシュバックする。サンドラは対戦相手に対して、腹を囮にしてでも、急所の首をブッ刺していた。あいつは敵を倒すためなら手段を選ばない。
死ぬ。
そう悟った刹那、刺したナイフでサンドラの体を押し、一緒に私も離れ、首をめいいっぱい下に曲げた。
ズサッ。私の髪が景色に散っていく。本当に間一髪だった。
サンドラが腹から私のナイフを引き抜き、両手使いを始めた。穴からは少しだけ血が出ている。
しかし、そこから五分、いや一〇分だろうか。武器が無くなった私は、完全に防御に徹して、隙を伺うしか無くなっていた。しかし相手はサンドラだ。隙を埋めるようなナイフ捌きで、顔を守っている腕が切られてしまう。周りにある銃火器のケースを壊しても、弾一つ出てきやしない。全部抜きやがったな。地面に散らばっている弾で転びそうになってしまい、反応速度が落ちて少しずつ切り傷が増えていった。もう出血で出たアドレナリンを使って、本能で避けるしかなくなっていた。
すると、度々起こるフラッシュバックで、ふと懐かしい気持ちに陥った。走馬灯だろうか、お互いボロボロの体で交じり合った日々を思い出した。
よく、私がサンドラのナイフを奪い、サンドラが「やめて!」と泣きながら後退りをしていたんだ。でも絶対に「降参」と言おうとしなかった。その往生際の悪さは、親や先生によく怒られていた。そんなんじゃ必ず死ぬと。
しかし、私はわかっていた。私が作らなかっただけで、一瞬の隙を伺っていたんだ。
私が、ナイフを下ろす瞬間を。彼女は、涙を流すハイエナだった。
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