電波越しの再会

【B】


ダグラス島に着くまで、無限に広がる海を見て待つしかなかった。

白い鳥が、水面を水平にスゥーっと飛んでいる。そのまま急上昇していったが、目で追うことはしなかった。私には、そこまでの余裕がないと、自分で気づいて嫌になる。

絶対に助けられると心の中で唱えるが、どこか奥底の、仕事人としてのBが、できなかった時の対策を考えている。

プランを二つ以上用意するのは、うちらのような仕事では当たり前。

しかし、確証を持てても、証拠がない仕事は普段しない主義だ。

もし居なかったら?私は無駄死にすることになる。

いや、いるはずだ。嫌な気持ちを振り払うように、強く頭を振った。

道路は一瞬暗くなり、明けたかと思うと、目の前にあったのはさっきの街を凌駕する摩天楼だった。ダグラスのやつ、相当稼いでいる。

その中でも一際高く、雲にぶつかりそうな黒いビルが圧倒的な迫力を出していた。

「見えたぞ、あそこのどこにいるんだって話だな。まずは怪しまれずに入って場所を絞ってこい」

調査団の命令口調に私は中指で応答した。今からあそこを探さなきゃなんて馬鹿言ってる。

車は近くのパーキングエリアに止まり、とりあえず私だけ向かうことにした。

横断歩道では、チャラチャラした若者たちが、金のアクセサリーを輝かして、下品な笑い方で通り過ぎていく。

あいつはどんな街を目指したいんだ。私の中のダグラスの記憶は、誰かを恨んでいるような顔しかしていない。

お金は弾んでくれるので、いろんな社長や取締役を周ったが、ある日、依頼がパタっと止んだ。その結果がこれか。気持ち悪い。

ビルの自動ドアは無駄にデカいバリアフリーで、金の荒々しさがよくわかる。中は白い壁に水色の蛍光線が張り巡らされいて、いかにも近未来と言うような施設に、スーツを着た人達がポツポツと群がっていた。

フロアガイドを確認すると、全十階。最上階には高級そうなレストランの名前が並んでいる。こんなはずない。もっと上にいけるはずだ。つまり、正攻法では入ることができなくなっている。

孤島を自ら作るほどだ。セキュリティも万全なはず。暴れることはできないな。

顔がバレないようにさっさと出て、パーキングに戻った。

「どうだった?」

「普通に入っても無理みたい。裏口があるはず。私は今からダグラスに電話してゼブラがいるか確かめる」

「俺と清掃員はどうしたらいい」

「お前は逆探知、そして清掃員は変装して、裏口から入れるようにしといて」

清掃員は着替え、調査員はトランクを開け、複雑すぎる機械を触り始めた。

スーツ姿になった清掃員が出て居なくなったタイミングで、私は電話をかけた。

『誰ですか』

女の声?まだダグラスは起きていないのか。

「お前こそなんだ、ダグラスのセフレか?」

『気持ちの悪いことを言わないでください。あなた、Bですね?』

私のことを知っている女。まさか。

「お前は廃人になってたはずじゃ?」

『随分と前の話ですね。もう違うんです。私にはやるべきことができたので』

調査員の顔を見ると額から汗が出ていた。探知できないということは電話会社を利用していない。つまり、自分で電波を発信させているということだ。

「なんでお前がダグラスの携帯を持っているんだ」

『そんなこと知って何になるんでしょう。ダグラスの殺しでも頼まれたのですか?』

埒が開かないな。そういえば。電話を切って、連絡先を探す。

「おい、この電波」

「わかってるようるさいな。次は行けるから」

と私のガラケーに電話をした。

ルルル、ルルル、ルルル、ルルル

ワンコールが長く感じる。頼む、出てくれ。

『B!』

「ゼブラ!」

思わず声が出てしまった。やっぱりいた。よかった。

『B!助けて!サンドラがっ……』

嘘だ。携帯が落ちる音が聞こえた後、

『殺す』

とさっきのサンドラの重々しい声が耳に響き、プツッと電話が切れた。

「よし!わかったぞ!地下だ!地下に……おい、なんで泣いてんだ?」

私は頬に溶けていく雫を止められず、肌で感じることしかできなかった。

真実だったのか、自分の中で数秒前に起こったことを何度も思い返す。

確かに聞いた。携帯越しに、銃声と、小さな悲鳴を。

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