告白
エレベーターに着くと、中からメイドが数人出てきて、僕にぶつかりそうになってお互いが避けることを繰り返す。やっとの思いで中に入ると、メイドが
「何階でございますか?」
と質問してきたので、
「あの、ダグラス、さんの、いるところって……」
「十五階でございますね」
「じゃ、じゃあ、十五階で、お願い、します」
「かしこまりました」
相手がサンドラのような冷たい人じゃなくてよかった。。
十二階に止まり、ボタンを押してくれたメイドが、先に出ていった。
どうしたらいいかわからない。どのボタンを押せば上に上がるんだ?
とあたふたしている間に扉が閉まり、勝手に十五階まで運んでくれた。
自動ドアが開くと、世界樹は緑に覆われており、その上は、世界樹が伸びるようにするためか、天井が空いていた。下をみると、急に落っこちてしまいそうな感覚に襲われ、怖気ついでたじろいでしまった。
一旦下を見るのはやめにしよう。ダグラスの部屋は、扉がデカくて、すぐにわかった。
ウィーンと中に入ると、汗臭い匂いが充満していた。なんだこの匂い。
ベットを見ると、ダグラスと女性二人で、ベットが乱れ切った状態で裸になって寝ていた。
びっくりして声が出そうになり、両手でギュッと口を抑える。
見えているもの全てが僕のよりかなり大きく、自分がまるで小さくなったかのような感覚で、もし起こしてしまったらなにが起こるかわからないと、抑えた手を離さないまま、鍵を探すことにした。
やたらと探していたらすぐに起きてしまうだろう。僕は記憶を辿った。彼はなんの前ぶりもなくスーツから鍵を出していたはずだ。スーツを探そう。幸い、ハンガーラックがすぐに見つかり、そこにスーツも飾ってあった。
中を探ると、名刺入れや、お目当ての鍵、そしてスマートフォンも入っていた。
そして僕は、鍵と、Bに連絡できると思って、スマートフォンを手に取り、ゆっくりと扉に向かった。
ダグラスが、体勢を変える音で一瞬固まり、汗が落ちる音さえ凌ぐように服で拭う。
ようやく出れたと思ったら、前に仁王立ちしているサンドラがいた。
サンドラに腕を強く引っ張られる。愛がなく、女性とは思えないほど痛い。
エレベーターの前まで引っ張られて、ジンジンする肩を抑える。
「ゼブラ様、ダグラス様の部屋でなにをなさっていたのですか?」
「い、いたいよサンドラ」
「聞こえないところまで連れ出してあげたのですから、感謝して欲しいのですが」
さっきからサンドラの口調に棘がある。さっきまで触れていた言葉にそのまま棘が生えているようで、避けることができない。
「ごめん」
「それで、ダグラス様の部屋でなにをしていたのですか?」
僕はさっきの鍵の感触がないことに気づき、ポッケやら周りやらを探した。まずい、盗んだ上に無くすなんて。引っ張られた道を見てもなにもなかった。
振り向きざまに、サンドラが僕に鍵と携帯を見せてポケットにしまってしまった。
どこにもぶつけられない焦りと怒りを両腕に込めて歯を食いしばり、下を向いてしまった。
「いくらゼブラ様とはいえ、盗みは良くありません。部屋に戻って反省を」
「銃を触りたいんだ」
僕は初めて願望を持った。そのためならなにをしてもいいと思う、自己中な願望。
「そのためになら、人のものを盗んでいいと」
「思ってない」
思ってない。人のものを盗んで良いなんで思ってないよ。サンドラはわかっているはずだ。やりたいことのために手段を選ばなかっただけだ。
サンドラの意地の悪さにつくづく腹がたつ。しかし、昨日の場でサンドラの力を見てしまった以上、抵抗はできない。爪が刺さりそうな拳が劣等感によって緩んでいく、全体的に力が抜けて、なぜだか涙が出てきてしまった。なんで、なんで。
「銃を、もう一度、触らせて欲しいんだ」
ぐずぐずしている僕の肩を叩いて、サンドラは僕の涙を指で拭った。
「わかりました。ダグラス様には内緒ですよ」
サンドラはニコッと笑顔を見せて僕のことを肯定してくれた。
思わずサンドラに抱きついた。
感情的に抱きつくのは、こんなに気持ちがいいのか。
「ありがとう。ありがとう」
「さっ、起きてしまう前に急ぎましょう」
サンドラにまた引っ張られてついていくが、次は期待と、重なった気持ちが腕の痛みが、気持ちよかった。
エレベーターに入って、サンドラが鍵を捻る。すると、またガタンと一瞬揺れ、下に下に下がり始めた。
サンドラの少し荒い鼻息が聞こえ、ちょっと気まずい。
了承してくれたとはいえ、さっきまで揉めていたのだ。
なぜか、会話しなきゃ、和まなきゃ、という気持ちが胃から逆流してきた。
「さ、サンドラは、なんで僕にこんなに優しくしてくれるの」
「今朝言ったでしょう。ゼブラ様のことが好きなんです」
「でも、僕らは会って二日だよ?」
「一目惚れと言ったじゃないですか。あと、私はゼブラ様の顔は、初めてじゃないんですよ」
え?
ガタン。エレベーターが急に止まった。サンドラが、フタを開けて赤いボタンを押していた。
「正確に言うと、私は、ゼブラ様のために作られたようなものなんです」
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