棒立ち
パン!部屋中に響き渡り、的の右上に穴が空いた。シモの顔は達成感を秘めていて、サンドラを見ると彼女は薄く微笑んでいた。俺はシモに顔を合わせて、グータッチを誘う。か弱い手がポンと当たった。
「よく当てた。しかし当たったのは人で言うところの右耳より少し横、人型でやってみよう」
と曲げていた腰をふっとあげ、俺は人型の板を持ってきた。シモの的を変えてから、ついでにサンドラのも変えようとすると、サンドラはこちらに構えていた。
撃ちそうで怖いもんだからせっせと置いてハケようとすると、それに合わせて標準を合わせてきた。ジョークだとしてもブラックすぎる。戻った時には私を見てニヤついていた。
すぐさまサンドラがパン!パン!と頭に二発当てて、シモに少しドヤ顔をした。
「頭は即死というわけじゃないが、確実に致命傷を与えられる。だが成功率は低い。ましては動いている相手にだ。私は腹を狙うことを薦めるよ。腹は広くて守りきれる人が少ないからな」
シモは次は少し意気揚々と構えるが、少しずつ目の中心が小さくなっていくのが見えた。
「ねえ、人は死んだら、どこにいくんだ。撃たれた人はちゃんと、天国に行けるのかな」
銃は自分を守るためにある。と説明しても無駄だろう。サンドラも、答えられずに黙っていた。
私はスペックが高いものが質のいい、価値がある人間。逆に、質の悪い人間は撃たれてもしょうがないと考える。もちろんこれは仕事に効率を求めた上での話だ。サンドラにはおそらく、自分より弱いものは撃ってもいいという考え方だろう。でもまだシモには、考えを結論づける力が備わってない。ある意味、大人になりきれていない。相手の命を終わらす理由を彼なりに見つけなければならない。
「シモ、君には守りたい人はいるか?もしその人が襲われたら、君の力で守りたくないか」
ありきたりだが、Bのことを思い出させることにした。しかし、彼女は強い。シモはどこまで彼女を知っているのかも同時に知りたかった。
「守りたいけど、そのために、相手を、人と、殺さないといけないのか。たとえ犯罪者でも家族はいるんだろ。僕にはいないけど、その人のことを愛している家族が」
今日はシモの心の波が激しい。「人なんて一人殺したらあとは一緒で、慣れていってしまうものだ」とBが言っていたのを思い出した。その世界を見続けていたせいで私の感覚が鈍っていた。
彼に家族はいないのに、そこまで考えられる子がどうして。
口の中にある皮膚を噛んで、言葉を探しているが見つからない。
「ならば殺さなければいいだけです。脚や腕でも人を戦闘不能にすることはできます。殺すのは反撃されずにこちらが楽になるからです。相手の死後など気にするような世界じゃないんですよ。殺し合いなんて。ジブラ様、難しいですが、その思考を貫くことはできますよ。もしかしたら、大きな反撃に遭うかもしれませんが」
と言いながら心臓部分を三回撃って見せた。言ってることとやってることが違いすぎる。彼女なりの主張なのだろう。
「大丈夫だ。今できなくたっていい。明日、朝にもう一回練習しよう。サンドラの言う通り、足や腕を当てればそれでもいい」
シモの心を安定させようとケアをした後、シモの銃を取ろうとすると、シモは銃を離そうとしなかった。
何か衝撃があっても離さないようにグリップをしっかり握っていたが、俺はそこまで教えていない。
「今日はもういい。危険だから、こちらに渡しなさい」
シモは私に目を合わせず、死んだような目でただ銃を握り続けていた。
サンドラがシモの両頬を掴むと、シモの目が一瞬開き、その瞬間にサンドラが銃を取り上げた。シモは唖然として、手にあった感触を確かめていた。
「ダグラス様。ジブラ様は何か思い出そうとしてるように見えました。彼、普通の子じゃありませんね?」
耳打ちされた言葉を、唾と一緒に飲み込む。私の後ろでは、カチャカチャと銃が片付けられる音が聞こえた。
思わず何を思い出したか聞こうと口を開いたが、頬に伝う粘り気のある汗が、私を冷静にさせた。今こそ、耐える時間のなのだ。耐えなさい。思い出させるんじゃない。フッと爽やかな香りが通り、サンドラの背中がシモに何かを話しかけている。見える彼女の背中が今は少し、大きく感じた。
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