朦朧
「ジブラ様、リバーシの続きをしましょう」
彼女は目でエレベーターの方を指し、私はあたふたしながら鍵を開けた。今度はサンドラが私を顎で使いやがった。エレベーターが降りてきて、中に入るように二人を促した。
エレベーターの中は、冷静な顔で私を見ているサンドラと、自分の世界に入っているシモが並んでいた。
この狭い円柱の中で、完全に意識が分離されている。私はなるべくエレベーターの隅に自分の体を置き、ボタンを押した。
メカニカルな風景に点々とある錆が妙に目については通り過ぎていくのを見ながら、自分の心の置き場を探していた。エレベーターがただ動く音だけが鳴り響いて、時間の経過はわかるが、動くのがひどく遅く感じた。
着いた時にやっと、自分の呼吸が荒くなっているのが分かった。
自分のために咳払いをし、エレベーターを押さえて私は彼女らをエスコートした。これも、自分のためだ。
「では私はジブラ様をお部屋にお連れいたしますので」
「ああ、分かった」
サンドラがシモを引き連れて曲がった時、ガクッと何かに押しつぶされるように腰が崩れてしまった。手と足で体勢を立て直そうとするが、周りがグラグラして朦朧としてしまう。自分の責務がここまでストレスになってしまっていたとは。
小さく、まるでトンネルから声をかけられるように「大丈夫ですか?」という声に、手のひらを見せてとりあえずの返事をした。
「暑い」
漏れた言葉が私が表現できる言葉として全てだった。グワっと体が上がり、両腕がブラブラと力をなくしているのがわかる。体を支えられているのか。自分の体から垂れた足元しか見れなくて、引きずられながら足を動かそうとするが、どうも操作が効かない。酒に酔っているかのような足取りだが、そんな気持ちがいいものでもない。
ウィーン。心地の良い、慣れた空気が鼻から体に通っていく。
せーのの合図で、身体がブワッと布団に包まれた。ああ、天井だ。
「ダグラス様、一度スーツを」
と言って、されるがまま脱がされていく。半裸になった状態また身体を寝かしてもらい、しばらくしたらまた持ち上げられ、次はタオルで身体を拭かれ始めた。だんだん意識が戻り、思考が回り始めた。
シモのあの目はなんだったのだろう。そしてやけにサンドラが冷静なのが釈然としない。彼女は知らないはずだ。しかし、まるでシモの理解者のようにあしらっていた。ということは、もう彼は。
「ダグラス様、かなり疲れていますね、お仕事お疲れ様でございます」
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