戦う練習

と、私は自分のナイフで首を指し、挑発した。

サンドラがいつものやる気のなさそうな顔のまま走ってくる。いつもこの表情の変わらなさに、いつか本当に殺してくるんじゃないかという怖さがある。

「いいかシモ、ナイフを持たない手は胸を押さえておけ」

サンドラは一定の距離で止まり、お手本のように右足軸でナイフを上から振り翳してきた。

ふん、こいうところが優しんだよな。すかさず胸を逸らし避けてサンドラの首を狙う。構えた瞬間を見ていたのか、スラッシュしようとしてもデンプシーロールのように下から潜り抜け、私は彼女の右肩が後ろに引こうとしているのを捉えた。

下から突いてこようとしているな。甘い。

フッというサンドラの声に合わせてすかさず胸にあった左手で彼女の腕を取ったが、その手にはすでにナイフを持っていなかった。腹に何か当たる感覚がして、思わず手を離す。サンドラは一歩引き、左手に持っていたいナイフを右手に持ち直した。涼しそうな顔をしているが、私を切ろうとした瞬間、目元が笑っていた。

「上手くなったな。ただ、本番でもそれをするつもりか?」

煽る私を見ずにクルクルとナイフをいじりながら足首をストレッチしている。私の言葉も弱くなったものだ。

シモに近づくと、目を隠していた指の間から、チラッと黒い光が見えた。

その手を取り、俺はナイフを渡す。

「これがナイフの重さだ。心配ない。サンドラはプロテクトスーツを着ている。思う存分戦ってみなさい」

小さく震えている。体以上に顔全体が不安を物語っていた。コインランドリーであったことを思い出しているのだろう。心苦しいが、これからの道で必ず必要な術だ。

サンドラは私を憎たらしい顔でみて、こいつと戦わせるきか?という表情で私を睨んできた。

正解。ゴム製のナイフを取り出しサンドラに投げた。少しサンドラの顔が緩んでゴムのナイフを受け取り、本物のナイフは投げて遠くの床につき刺した。

私はジェスチャーをしながら二人にルールを説明する。

「どちらかが首、手首、腹、足首のどれかをナイフで当てたら終了だ。さっ、いつでもどうぞ」

シモは両手でナイフを握りしめいるが刃先は床に向いている。サンドラのも床に向いていたが、いつでも手を出せるとばかりにナイフを軽く持っていた。

動かないシモを横目にサンドラに目を合わせる。

私はサンドラに顎でシモの方を指した。聞こえなかったが、口の形からするにあいつ舌打ちをしたな。シモのことがどんだけ気に入っているんだ。

唐突にサンドラは走り始め、ナイフを下から掬い上げてシモのナイフを飛ばそうとしていた。ナイフは離さなかったが、その力でシモは後退りしてしまう。体制が崩れたらおしまいだ。

しかしサンドラは攻撃を続けるフリをしてシモが持っているナイフの方向に合わせてナイフを円を描くように大袈裟に振り、彼に自分を守らせようにしていた。

彼女は約二十分。同じことを繰り返し、初めてシモはサンドラの動きに合わせてナイフでサンドラのナイフを払ったのだ。シモはどうしたら守れるのかやっと理解した動きをした。

サンドラの手柄だが、本当にサンドラは優しすぎる。

彼女もシモの動きを察知したのか、次は動きが小ぶりになり、手加減ながらも攻撃を始めた。一回目、サンドラはシモが守っている方と逆方向に振り、シモは咄嗟に後ろに飛んで避けた。できたことは素晴らしいが、飛んだ後はプロでも少しだけクールタイムが必要だ。そこを詰めるように二回目、サンドラは上から振り下ろしたら、次は横に避けた。しかも、私がやったようにナイフを持っていない方の肩から胸にかけて逸らし、後ろに引いて避けている。サンドラは振り下ろしそのまま後ろに飛んで体勢を立て直す。もう一度走り詰め、腕を侍が刀を構えるような姿勢で横一閃、つまりまた後ろに飛んで避けられても対応できるようにしてきた。

さて、君はどうする。

シモはサンドラの構えを見た後、自分のナイフでしっかりガードした。初めて自分でガードをしたんだ。シモがガードとした腕を取りサンドラは側転をするように後ろに回り込んで、首元にナイフを当てた。下ろした後も、シモはその体勢で動けなくなっていた。

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