20m
「誰よあなた!」
情報通り金髪の女。私はニヤニヤしながら早歩きで詰めよった。彼女はナイフで私に勢いよく突き立てたが、そのナイフは震えている。
甘いなあ。
私は走って一気に近づき、右手で下から彼女の両手を頭の上まで持ち上げ、左手で優しく腰を回し、ゆっくり耳元に近づいて囁いた。
「人殺し」
彼女が涙を浮かべながら後退りしているのを左腕で押さえ込むと、自分の両手を引っ張って離れようとしていたので、私は左腕をパッと離し、勢いよくナイフを引っ張って取り上げた。
彼女は後ろに強く尻もちをついた。痛みを患っている間に、私は少し離れ、ナイフを見物しながら彼女に語りかけた。
「あのね、私知ってるんだよ。あなたが、人を殺したってこと」
返しがついてる。突き立て、彼女は後退りしながら逃げるが、私はスピードに合わせて、歩きながら続けた。
「編集者から大金をもらうために、体をまで使ったのに払われなくて、警察呼ぶとかなんとか言って、やっともらえたっていうのに、セクハラされたって追加で慰謝料請求して。雑誌に載ってたね」
彼女はフェンスにぶつかった。
彼女は後ろを向き置かれている現状を理解したのか、固まってしまった。きっと絶望しているに違いない。たまらない。私はしゃがんで、刃先を彼女の首に当てる。
すると、ハートが強いのか怖いもの見たさか、私に話しかけてきた。
「だ、だれなのあなた」
なんだ。この手の質問はよく来る。後でどうせ言うことになるので無視して続けた。
「そんで最後は殺し屋まで雇ったとか言って、精神的に追い詰めたんだって?可哀想。あなたのせいで、こんなになっちゃった」
とさっき撮った死体の写真を彼女の目の前にいきなり見せた。
「誰かに殺されちゃったみたい。あなたが。この人を追い詰めたから、この人死んじゃった。人殺し」
彼女の目が潤んできた。
「死んじゃった。死んじゃった。あなたのせいで死んじゃった。可哀想、可哀想。」
「やめて」
「お前のせいで死んじゃった。人殺し。人殺し。」
「助け」
叫ぼうとした彼女の口を右手でバッと覆う。
「叫ぶな」
私はナイフを喉元にわかるように突きつけて、彼女を黙らせた。涙が私の指に流れていく。次は右目から。私はナイフのみねでそっと彼女の涙を拭う。
「彼のために復讐しなきゃ。それが私の仕事。ところであなた綺麗な髪ね。ちょうだい」
彼女の上に乗って、私は彼女の髪を掴み、ナイフで髪をざくざく切り、風まかせにばら撒いた。
すると、髪を触るや否や、状況を理解してしまった彼女が、とうとうわんわん泣き始めてしまった。ダメだ。私のニヤニヤも止まらない。
「もっとちょうだい」
「やめて!」
彼女は私をドンとむせびながら押し、丸まって自分の頭を押さえ、何も見えないようにしていた。
「何、死にたいの?」
いひひひと笑いながらナイフを逆手に持ち替え、私は、彼女に近づいて、首を持ち上げて、彼女の震える目をじっと眺めた。次はナイフを顔の横まで、傷つかないようにゆっくりと、頬を撫でた。
「わ、わかったわ。あなた殺せないんでしょ?」
甘やかしすぎたか。私に指を刺し涙を流しながらも、自信を取り戻していっている。彼女が無理にでも笑おうとしている顔を見て、私は「はぁ」と彼女の前で声を出しながらため息をつき、掴んでいた腰に手を当て、俯いた。相手の肩が少し降りたのが見えた瞬間、指してきた人差し指を掴んで逆方向に曲げ始めた。
「痛い、痛い痛い!」
彼女は左手で私の手を引っ張ったり、自分の手を引っ張ったり、殴ったりして脱出を試みているが、そんなの、昔と比べたらどうってことない。痛がる彼女を見ながら
「私はね、長く苦しませるのが一番好きなの。こんな感じで指を折ったり、弱い毒を定期的に与えたり。あ、知ってる?一番痛いのは足の親指、ここでハンマーで叩くと」
と右足を優しく踏み、話していると
「や、やめ、やめて苦手なの、そういうの」
精神的にも来始めている。指を離すと曲げられた指を手で包む間もなく、耐えられずにまたしゃがんで、耳を塞いでしまった。気が強いやつはどうもメンタルが弱い。
「そういうの嫌だったら、おとなしくしててもらえる?」
私はふふふと笑って、続けるように、彼女の髪をザクザク切っていった。どんどん青ざめていくのが面白い。とりあえず中途半端に残して
「可哀想。もう芸能界とか無理じゃない?あ、そうそう。なんかリークしようとするなら、さっき言ったこと、やってあげるからね」
と彼女の頭を撫でながら言った。触られて、さっきよりも髪がないことに気づいたのか、急に悶絶しながら暴れ始めた。私は少しだけ離れて、彼女を観察する。
「やだ!やめて!やめてぇ!もうやめて!」
頃合いだな。ナイフを捨て、私はまた髪を解いて上着をコートに変え、チャックを締めて、ポケットの中から透明な糸を取り出す。
そして悶絶している彼女に近づいて、抱きしめた。
「何、何」
「あなたは悪くないよ。さ、おいで」
私は優しい声で彼女に語りかけた。お姫様抱っこをして、彼女に、夜景を見せる。
「やだ、まだみんなが死ねって言ってくる」
どうやら幻聴も聞こえ始めている。笑いを堪え、私は続ける。
「見て、綺麗でしょ。もう夜中なのに、まだ働いている人たちがいる。この世は、どこかおかしいんだよ」
ゆっくり、フェンスに近づいて、「ほら立って」と、彼女をフェンスの外側に立たせた。私はそっと自分の手を彼女の肩に置く。
「よく見て、この世は変だよ。理不尽で、退屈で、何もかも間違ってる。あなたのせいじゃない」
「そ、そうね、確かに、変だわ」
次は耳元で、優しく、囁いた。
「もうこんなところ、バイバイしたっていいんじゃない?」
彼女にゆっくりフェンスを持たせ、彼女は踵で立つのがギリギリの状態で立っていた。私はまた優しくハグして
「大丈夫怖くない。怖くない。」
と慰めながら、透明な糸。ポリビニールアルコールで出来た糸を、彼女の体にゆっくり巻き付け、近くの室外機のパイプにくくりつけた。彼女のところまでまた向かい、
「大丈夫、見えない紐をつけておいたから。決断しない限り安全よ。人生なんていつでもやり直せるんだから。景色を見終わったら、戻ってくるのよ」
フェンスから手を離させて彼女の手を後ろに繋がせ、両手首を透明な糸できゅっと縛り、私は再び彼女の肩を抑えた。
「ほらね?」
「ほ、本当ね。ありがとう天使さん」
なんだそれ。笑いそうになる歯を食いしばって、私はゆっくり離れ、扉の前まで下がった。
「じゃあね!あなたの人生、応援してるわ!」
「ありがとう!」
あそこまで判断できなくなるのは、流石に可哀想だな。
私は扉を開けて中に入り、エレベーターで一階まで戻った。
管理部屋では、さっきとは別の清掃員が監視カメラをいじっていた。次は田舎っぽい顔の、おばさんだった。
「指はパワハラ、髪は自分でやった。ということにしておきます」
「どこで見てるんだよ気持ち悪いな」
「まあ、そういう仕事なので」
私が外を出ると、ドドンという雷の合図で、突如雨が降り始めた。私は止めてあったタクシーに乗って、駅まで伝えると、タクシーはマンションと彼女を置いて、走り出した。
清掃員は殺し以外本当になんでもやってくれるな。
タクシーが最初の信号で止まっている時に、突如、タァァンという音が、私の耳まで届く。
運転手が不思議そうに「なんの音ですかね」と質問してきたので、
「最近物騒ですからね、気をつけてくださいね」
と我ながら、優しい笑顔で答えた。
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