陰キャがと思っていたらヤクザの一人息子でした

桜桃

これが吊り橋効果という物なのだろうか

 暗く、じめじめとした体育館倉庫。

 外は雨が降っていて、雨音が響く。


 少し肌寒い体育館倉庫に制服で一人――いや、二人で閉じ込められてしまっていた。


「はぁぁぁ……」


 白いマットを敷き、その上に私ともう一人が座っている。


 私の隣には、クラスの中で陰キャと言われている男子。

 名前、なんだっけ……。


 んー……あ、思い出した。


「えぇっと、あの、赤城あかしろ君」


「なに」


「あ、えっと。だ、大丈夫? この後用事とかなかったかな」


「別に」


「…………そう」


 こ、こんの陰キャが!!!

 この私が気を利かせて話しかけたのに、適当に返しやがって!!


 ――――隣に座っている陰キャは、赤城景虎あかしろかげと君。

 黒髪の天パに、眼鏡。制服は他の人とは違ってアレンジなし。面白味もない。


 一人でいる事が多く、誰も話しかけようとしないんだよね。

 私も今まで話したことは、あまりない。


 あまりない、というのは、まぁ、最初二年生になってすぐ、同じクラスだった時に私から声をかけた程度なんだよね



 私は、自分で言うのもなんだけど、簡単に言えば、人気者。結構モテる。


 それは当たり前な事。

 普段から見た目には気を使っているし、スキンケアは欠かさない。流行にも敏感。


 髪は痛まないように気を付けながらもおしゃれに巻き、胸位までの長さをキープ。

 私の顔の形とかでは、今の長さが一番決まってる。


 そんな、日々のスキンケアが功をなし、クラス一の美少女って言う肩書を持つことが出来ていた。

 男子からの告白は、もう両手でも数えきれないほどだ。


 もう、私と話せば男子はいちころ――――の、はずなのに。


 この男だけは、私が何度声をかけても落ちなかった。

 何度アプローチをしても、何度スキンシップをしても駄目。


 くそぉぉぉおお。

 この私がまさか、一人の男子に負けるなんて……。


 それが悔しくて、何とか落そうと頑張ったんだけど無理で、今では全く話していない。

 まさか、そんな赤城君と体育館倉庫に閉じ込められるなんて……。


「…………あ、あの。えっと、なんで赤城君はこんな所にいるの?」


「倉庫で寝ていたら君が入ってきて、ドアを抑えていた三角コーンを倒し、閉じ込められたから今ここに居るんだけど」


「…………そうですか。質問を間違えましたすいません」


 ぐぬぬぬぬぬぬ、た、確かにそうなんだけど、そうなんだけどさぁぁぁあ!!


 なんで体育館倉庫が開いているんだろうと中に入る時に鞄が三角コーンにぶつかり、倒れてしまった。


 その時にドアが勝手にしまって、衝撃でおそらく外の鍵が落ちて開かなくなった。


 窓は開かないようにされているし、出入り口は一つ。

 その出入り口が鍵によって開けられない。


「はぁぁぁ、最悪」


 もう、話をかけるのやめよ。こっちが疲れるだけだ。


 助けを待つしかない。大丈夫、今日一日待っていれば必ず助けは来るはず。

 …………助けに来て、くれるよね…………?


 いや、もしかしたら助けが来ないかもしれない。

 今は放課後、先生達も体育館倉庫の中まで確認はしないだろう。


 ま、まさか。このまま赤城君と二人で閉じ込められ続けるなんてこと、ないよね……?


 そ、そんなの、いやだ、普通に嫌だし、帰りたい。


「……………………ねぇ」


「な、なに?」


 いきなり赤城君が声をかけてきた。

 な、なんだろう。


「大丈夫、もう少しで助けが来るから」


「え、助け?」


 なんか、腕時計を気にしてる。

 なんで?


「あと、十分くらいかな」


「い、いや、だからさ。なんでそんなこと言い切れるの?」


 なんか、イライラしてきた。

 早く理由、言ってよ。


「…………キャラ、口調共に違うね。猫、被らなくていいの?」


「――――あ」


 や、やばっ!!

 不安と焦りで、思わず素で話してた。しかも、無意識……。


 最悪!

 私は今までゆるふわ系の可愛い女の子を演じていたのに、本当に最悪!!


「へぇ、それが素なんだ」


「う、うるさいわよ!! いい!? 絶対に他の誰にも言わないでよ!!」


 このままだと言いふらされる!! 言いふらされてしまえば、私のこの学校での立ち位置が危うい!!


 絶対に口止めをしないと!!


「近くない?」


「――――へ?」


 口止めをしないとと必死になり過ぎて、赤城君に顔を寄せていた。

 距離が近い、初めて赤城君の藍色の瞳を見たような気がする。


 ――――――――っ!?



「ご、ごめっ――――」


「あ、ちょっ!」



 ――――――――ガンッ!!



 いったい!!

 背中を何かにぶつけっ――――


「あっ――――」


 上から、倉庫の棚に置かれていたいろんなものが落ちてきっ――…………



 ――――ガラガラ!! カランッ



「…………いってて……。いや、痛く、ない? っ、え」


 上から降ってきた物に埋もれる、そう思ったのに。

 私の目の前には、藍色の瞳。それと、微かな血。


 え、な、にが起きたの……?


「い、いやいや。いてぇのは俺なんだが…………?」


「…………え、赤城、君?」


 赤城君が私を庇って、怪我をした?


「え、ちょ!! 大丈夫!?」


「っ、おいおい、動くんじゃねぇよ。さすがにいろんなものが落ちてきてっから、不用意に動くと危険だ。助けが来るまでこの体勢で待つぞ」


 え、この体勢で待つって……。


 今の体勢は、私が白いマットに仰向けになり、赤城君は私を守るように覆いかぶさっている。


 これ、男女でこの体勢は、まずいんじゃ?


「――――って、え、あ、赤城君、あの…………」


「あぁ? あぁ、着崩れたか。今まで隠していたが、仕方がねぇな」


 口調、態度がさっきまでの陰キャとはまるっきり違う。

 眼鏡が衝撃で落ち、素顔。制服は崩れ、今まで隠れていた鎖骨辺り……が、見えて、その……。


「それって、入れ墨……?」


 制服の隙間から見えるのは、竜と桜の入れ墨。

 漫画とかでは普通に豪華でかっこいと思えるような入れ墨だけど、今そんなことを思えるような余裕が私にはない。


「おう。俺、ヤクザの一人息子だから、証として入れたんだよ。今まで隠していたのに、まさか猫かぶり女にばれるなんてな」


 なっ!! 猫かぶり女って……。

 そんな言い方しなくてもいいでしょうが!!


「これで、お互いに弱みを握っちまったな」


 私を挑発するように藍色の瞳を細め、舌を出す。

 その舌には、ピアス。舌ピという物をしていた。


 今まで髪に隠れて気づかなかったけど、よくよく見てみると耳にもピアスが付けられている。


 ま、まさか、この陰キャ。

 ヤクザで、ピアスバチバチだったなんて!!


 私が唖然としていると、何故かジィっと見られている。


「な、なによ」


「…………いんや、お前。猫被ってない方が可愛いじゃん。顔は整っているし、俺は今のお前の方が好みだぜ」


 口角を上げ、白い八重歯を見せながらそんなふざけたことを言ってくる。


 ま、待って、待って待って。


 そんなこと言われるなんて思っていなかったし、気持ちの準備が……。

 し、心臓が、心臓がうるさい!!


 やばい!! このままだと、本当にまずい!!


「おっ、顔、赤いじゃん。照れちゃった?」


「う、うるさっ――――」



 ――――――――ガラララララ



「若頭!!! 大丈夫ですかぁぁぁぁあああ!!!」


 ――――え、え? ドアが開いた? わ、若頭??


「あーあ。残念」


「――――え」


「あともう少しでお前を落せたかもしれないのに。俺を必死に落とそうとしてきたお前を、俺がな?」


 それだけ言うと、余裕そうに体を起こす赤城君。


 血が流れていたのは、頭を切ってしまったからみたい。

 駆け寄ってきた黒服の強面男性が傷を見ている。


 って、いやいや、ま、待って? 普通に、起き上がった?

 え、動くと危なかったんじゃないの?


 ――――あ、赤城君と目が合った。


 !! わら、った。


 ~~~~~~~~ほんっと、最悪!!!!



 鞄を手に取り、倉庫から飛び出してしまった。

 でも、仕方がない。だって、こ、こんな。


 こんな、にやけそうな変な顔、見せたくない!!


「~~~~~~危なかった。本当に、危なかった」


 危機一髪、あの人たちが助けに来なかったら、私は今頃――……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

陰キャがと思っていたらヤクザの一人息子でした 桜桃 @sakurannbo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ