第2話「デロス村」

王都を出た直後


リュートはハルジークに質問を投げかけていた。

「そういえば、ハルジークさんは何故紅茶を飲まなかったんですか?」

「苦いじゃん、紅茶」

「そうですかね?」

「そう思うのはハルジーク、貴方だけです」

「カナリアもそこまで言わんでもいいじゃん」


なぜかハルジークが飲まなかった紅茶の話をしていた。

基本的にこの世界では紅茶か水が主な飲み物、というかそれ以外を飲まない人が大半である。

しかし、ハルジークは紅茶に触れもしなかったのだ。


「じゃあハルジークって普段水ばっかり飲んでるのか?」

疑問に思ったアレキス尋ねた。

「え?普段?緑茶飲んでるけど。水をそのままなんてのはそう飲まんぞ」

「...流石に考えられないわ...」

そう呟いたのは魔法使いのソフィアだった。


「ま、まあソフィアはお嬢様の家の出だからなぁ」

「リュート、俺それ初耳なんだが」

「待ってハルジーク本当に言ってる?結構有名な家の人だぞ?」

「おう、知らんが」

「私を知らない人初めて見たんだけど」




話が脱線しながらも最初の目的地である、デロス村に辿り着いた。辺りは平原が広がっており、見晴らしが良い。

村の入り口には数人の村人らしき人と、村長だと思われる人が立っていた。


「勇者殿のご一行でお間違いないですね?」

案内役の女性が聞くと、

「はい、間違いないですよ」

とリュートは答える。

それを聞いた老いた男性は一歩前へ出て

「ようこそ、デロス村へ。儂が村長のアントナンじゃ」

と少しかすれた声で言った。

「よろしくお願いします」

と短く返事をすると、案内役に村で一番高い宿に案内された。

勇者パーティーだからタダで使えるとの事で男子勢は、じゃあ遠慮なく、といった感じだった。





夕飯や入浴を終え、ロビーみたいな場所で6人が雑談をしていると、案内役が入ってきた。

「今お時間よろしいでしょうか?」

「大丈夫ですが...どうかしましたか?」

リュートがそう聞くと、案内役はこう答えた。

「明日の朝、集会が広場で行われます。村長が是非参加して頂きたいと申すので...」

それを聞いたリュートは

「僕は参加したいな。みんなはどう?」

と答えた。少しの間、沈黙が続いたが最初に口を開いたのはハルジークだった。

「お前が命令するなら参加する。個々でご自由にって言うんなら俺は参加しない。」

それに続き、カナリアも

「私もハルジークさんと同じです」

と言った。

アレキスは、「俺は行く」とだけ言って部屋に戻っていった。

ソフィアは、「リディアが行くなら」と言った。

最後にリディアは

「みなさんなんか素っ気ない態度ですね...私は行きたいです」

と言った。

それらを聞いた案内役は、

「それでは、明日の朝、広場でお待ちしております」

と言い、去っていった。


「んー、じゃあハルジークさんとカナリアさんも参加で」

「了解、じゃあ俺は早めに寝るわ」

「私もそうします」

と言い、ハルジークとカナリアは部屋に戻って行った。


「ふと思ったんだけどさ」

とソフィアが口を開く。

「どうしたの?ソフィア」

「あの2人は相部屋だよね?」

「あの2人って言うと...ハルジークさんとカナリアさんのこと?」

「そうそう。男女が一緒で大丈夫なのかなーって」

「まあ大丈夫でしょ。僕たちが訪ねる前は2人で暮らしてたみたいだから」

「それならまあいいけど...っていつの間にかリディア寝ちゃってるじゃん」

「それじゃあ、今日はお開きにしようか」

「そうね」

そうして、ソフィアはリディアを担いで部屋に戻り、リュートもアレキスの居る部屋に戻った。




ハルジークとカナリアの部屋

2人はこんな会話をしていた。

「そういえばハルジークさん」

「おうどうした」

「寝る時の服がいつもとほぼ変わらない気がするんですが...」

「キノセイキノセイ」

「そう言うと思ってハルジークさんのパジャマを予め買っておきました」

カナリアはそう言い、大きいバッグから

「...俺はこのままで十分よ?」

「いやぁ...これ、似合うと思うんですよー、なので一回着てみて下さいよぉ~」

そう言いながら、深緑色のパジャマを持って、カナリアはハルジークににじり寄っていく。一歩近づくたびに、ハルジークは一歩遠ざかる。やがて、ハルジークは窓際に追いつめられる。

「さあ諦めて着てください!!」

と言い、ハルジークに飛び掛かり、覆いかぶさろうとする。

すると、

「やなこった!!」

と言って、窓を瞬時に開け、そこから身を投げた。


その後に

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"」

という断末魔が聞こえ、駆け付けた4人に説得されて、その日は諦めてパジャマを着たのは、また別のお話。

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