第一章「魔王討伐」

第1話

フェルメーロル王国宮殿にて




「勇者リュートよ、其方にこの"勇者の証"を授けよう。必ずやかの魔王を討伐し、我が王国の安寧に貢献せよ」


その言葉が宮殿で一番大きいホールに響く。

そして、国王の目の前のいかにもという人が言う。


「お任せください。その任務、必ず成し遂げて見せます」


という声も響いた。

後ろに居た戦士、魔法使い、僧侶も頷いた。

それを見た国王がまた一言。


「勇者一行に祝福あれ!!」


高らかに言い放たれたその一言を皮切りに、四方八方からの大きな拍手の渦が巻き起こった。国王と同じように「祝福あれ」と高らかに叫ぶ人も見える。


こうして、勇者とその仲間たちは魔王討伐に出発した。




同時刻、王都の一角


「いい加減に起きてください!!もう出発式は始まってるんですよ!!折角招待状が来たというのに、よくスルーしますね!?」

「んぅぃー...すまん...もう30分...」

「ダーメーでーす!」


これが日常らしい家がある。家の前には"ハルジークの何でも屋"という木製の看板が掛かっている。寝坊している人を起こしているしっかり者が住み込みで働いているカナリアという女性である。寝坊している人はハルジークという男である。2人とも若く、年の差は無いように感じられる。


「いい加減に...してくださいっ!!」

「あだっ!殴るなよ!」

「起きないのが悪いんですよ!」

「あんなもん行ったってどうせ碌な事無ぇって」

「それは行ってみないと分からないっていつも貴方が言ってるんじゃないですか!!」

「それはそうだけどさ...おっと来客かな?」


2人が言い争っている最中にドアがノックされた。しかし、ハルジークは疑問に思った。


「何でインターホンがあるのにわざわざノックするんだ?」


しかし、その疑問はあっさり解決する。


「近隣住民の方ではないからだと思います」


何を隠そう、魔法を使うのが当たり前のこの世界、現代の日本みたいな家(内装のみ)に住んでいるのはこの2人だけである。したがって、インターホンがあるのもこの家だけである。


「とりあえず出ますね」


そう言ってカナリアは玄関を開ける。




そこに立っていたのは勇者一行であった。


「えっと、どちら様ですか?」

「おい、俺たちが分からんのか!?」

「よせ、アレキス。失礼、僕たちは勇者パーティーです。」


そうして一通り自己紹介を済ませた後にこう言い放った。


「ハルジークさんに一度会いたいのですが...」

「彼に...ですか?それはまた何故...?」

「一度、話をしたいんです」

「...少々お待ちください」

「手短にお願いします」




「ハルジークさん...勇者一行が来ています」

「知ってる」

「一度会って話がしたいと仰ってまして...」

「...そうだな...」

「...どうされます?会いたくないなら断っておき「上げろ」...え?」

「上げろって、あいつらを家に。」




「上がっても良いとのことです」

「では、遠慮なく上がらせてもらうぞ」

「あ、履物は脱いでけよ、4人とも」

「ハルジークさん!?」

「あんたらなんだって?勇者パーティーってのは」

「...はい」

「まあ上がって応接間で話でもしようや」




ハルジークと勇者一行は応接間の長いテーブルを挟んで座った。

カナリアは5人に紅茶を入れ、それぞれに前に置いた。


「それで、何が望みだ?」

「...単刀直入に言います。勇者パーティーに加わって下さい」

「メリットとデメリットを具体的に提示しろ。それか報酬金額の提示を」

「金や利点が無いと動かないんですか?薄情な人ですね」

「便利屋なんでね。そうでもしないと生活が成り立たん」

「自身を顧みずに他人、ひいては公共に尽くすのがこの国の宗教の教えのはずですが?」

「知るかよ。俺は宗教なんざ信仰してねぇよ。(論点を変えるなよクソッタレ)」

「そんなんでよく生きて来ましたね」

「相応の報酬があればやるって言ってんだよ。話が通じないなら代理でも立てたらどうだ?」


「あ、あの!」

「リディア、今は交渉中なんだ。話は後にしてくれるか?」

「いや、聞こうか。何だ?」

「そ、その、出世払いは、だ、ダメ...ですか...?」

「もちろんOKだ。支払いが確実ならな。だが基本は前払いだ。成功報酬は依頼者の厚意でもらうことはあるがな」

「な、なるほど...」

「で、どうするんだ?勇者サンよぉ?」

「...いくらですか?」

「内容は?」

「魔王討伐です。他には行く先々の村や町の問題解決なども」

「金貨6000枚だ」

「...少しまけてくれません?」

「5500枚」

「...まだ...」

「5000枚。これ以上はまけられないな」

「...これは困ったな...」

「別にいいぜ?王様の財産から引っ張ってきても。勇者だから王室の財産は自由に使えるだろ?」

「...確かにそうですが...」

「ならいいじゃねぇか。後はお前さんがこれを承諾してくれれば契約成立だ」

「...分かりました。この条件でお願いします」

「...了解だ。ま、こんだけ貰えるんだ。仕事はきっちりやるからそこは安心しな」

「では「あ、そうそう。カナリアはどうする?」...え?」

「え?わ、私ですか?別にどちらでもいいですが...」

「なら付いてこい。いい経験になるだろ。報酬は金貨5000枚のままだから安心しな、勇者」

「は、はい...」


一応、契約は成立したが、まだぎこちない雰囲気が部屋に満ちていた。

その後、ハルジークとカナリアは服をちゃんとしたものに着替え、ひとしきり準備をした。

そして、玄関先に長期休業の看板を掲げて、6人は出発した。

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