第29話

「私たちは代々王家に仕えてまいりましたわ!ここを離れて王都で過ごしてみて改めて思いました。私たちは死ぬまで坊ちゃんのおそばに尽くしていく覚悟はできていますから」


「そうです。確かに歳ではありますが坊ちゃんの幸せを見届けるまで死ねませんよ」


「シシー、マイケル……」



シシーとマイケルの熱い言葉に感動していたマグリットは持っていたハンカチで滲んだ涙を拭う。

イザックは咳払いをしながら「坊ちゃんはやめてくれ」と言っているが、その表情はわかりにくいがとても嬉しそうに見える。


マグリットが二人の話を詳しく聞いていると、アデルが嫁いでくる前に王城から派遣された侍女や侍従はイザックを恐れて逃げ帰ってしまい、そのことを知らずに王都に帰っていたシシーとマイケルはイザックが新しい使用人とうまくいっているか心配になり国王に直談判。


国王が早馬を送るとイザックから「大丈夫だ」との返事が届く。

しかし何かがおかしいと直感的に思ったシシーとマイケルは調査員を派遣してもらい調べてみると使用人たちは全員辞めていたことが判明。


イザックが知らせなかったこともあるが自分たちがいなくなって一カ月以上も経っている。

慌ててガノングルフ辺境伯邸に帰ってきたが屋敷は鍵が閉まっていて誰もいなかったということで何かあったのではとイザックを探し回っていたらしい。



「無事で本当によかったですわ。私はイザック様が餓死しているのではと心臓が止まるかと思いましたわ」


「大袈裟だな」


「当たり前ですっ!マグリット様がいなければどうなっていたのか考えたくありませんぞ!」


「…………」



シシーとマイケルに返す言葉もないのか、イザックは気まずそうに人差し指で頬をかいた。



「マグリット様、本当に本当にありがとうございます。あなたはイザック様の命の恩人です!」


「いえ……!」


「しかし何故アデル様ではなくマグリット様が?」


「どこかの侍女として働いていた経験があるのでしょうか?」



マグリットが家事全般をこなせることが不思議なのだろう。

シシーとマイケルにマグリットがどういう経緯でここにきたのか、ネファーシャル子爵家でどう過ごしていたのかを話していく。



「なんとおいたわしい……!」


「だからこんなにも色々とできるのですね。ネファーシャル子爵は本当にひどいことを」



シシーとマイケルは眉を顰めてマグリットの話を聞いてくれた。

シシーは目に浮かんでいた涙を拭うとマグリットの手を掴んで立ち上がる。



「坊ちゃん、マグリット様を私たちで幸せにいたしましょう!」


「……シシー!?」


「私も賛成です」


「マイケルまでなにを言っているんだ」



二人はマグリットとイザックがもう結婚して夫婦だと思っているようだがマグリットの認識はちがっていた。


(アデルお姉様の身代わりに嫁いだけれど、わたしって使用人として雇ってもらったのよね?)


その辺のことは聞いたことがなかったのでマグリットはサッパリである。



「シシーさん、わたしは使用人としてイザックさんに雇っていただいているだけなので」


「「え……?」」


「そうですよね?イザックさん」


「ネファーシャル子爵から送られてきたマグリットの名前が書いてある書類は兄上に出してないから、まだ夫婦ではないが……」



マグリットがそう言うとシシーとマイケルの目が大きく見開かれる。

イザックは顔を背けてしまい表情は窺えない。

マイケルもシシーとマグリットが握り合っている手を包み込むように握る。

二人にガチガチに手を握られながらマグリットが戸惑っていると、徐々に近づいてくる二人の顔。

あまりの圧にマグリットは思いきり背を逸らす。

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