味噌編 二章

第24話 ネファーシャル子爵side1


マグリットがガノングルフ辺境伯の元へアデルの代わりに嫁ぐことになったものの後悔していた。

焦ってこんなことをしたがマグリットを使用人として育てていたことがバレてしまうのもよくないのではないだろうか。


(うまくやってくれたらいいのだが……)


今のところガノングルフ辺境伯から連絡がない。

王家からも何故か連絡がないことに安心したのも束の間、マグリットのことを考えられないほどにネシャーファル子爵家は窮地に立たされることになる。


唯一の侍女であるレイも「アデルがいないなら」という理由でさっさとネファーシャル子爵家を辞めてしまう。

それに加えてマグリットがいなくなった日から誰も料理人を雇っていないことに気づく。


暫くは外に食べに行っていたが、朝食も紅茶も出てくることはなく買い物に行く使用人は一人もいない。

洗濯物は溜まり続けて、ネファーシャル子爵邸の雑務が滞り新しい使用人を雇った頃にはすっかりと二週間が経とうとしていた。


レイはアデルの世話をしていただけだがマグリットがいなくなった穴が大きすぎてどうにもならない。

急遽料理人を一人雇うが、買い出しに三食作るとなると人手がまったく足りないと言われた時には「怠慢だ!」「ありえない」と怒鳴りつけてしまう。

元伯爵家の料理人らしいが、料理人は三人以上はいたと言い張っている。

それを信じられない気持ちで聞いていた。


(マグリットは一人でやっていたのだぞ?一体、どういうことだ)


新しく雇った料理人が自慢げに出す料理は豪華だが、すべて油っぽくて食べられたものではない。

妻もそう思ったのだろう。

三食食べる頃には胃がもたれて嘔吐してしまいそうになっていた。



「な、なんだこの不味さは……!」


「今回の料理人はハズレだっただけよ」



そう思い試しに料理人を変えてみても同じことが起こる。


(何故、マグリットはあんなにうまい料理を作れたというのだ!?)


しかし問題は料理だけではなかった。

溜まった洗濯物や掃除をやらせる侍女を二人雇ったが、ネファーシャル子爵邸の大きさでは人手が足りない、

あと三人は必要だと言われた時には愕然としていた。


(あ、あと三人だと……!?そんなに雇えるわけないだろう!)


庭師に従者も雇うとなるとどれだけの金が掛かるか考えるだけでも絶望してしまう。

唯一ネファーシャル子爵家に残った執事にも賃金をギリギリ払っている状態だ。

マグリットは無賃金で働かせていたがそれだけでこうなるだろうか。


今まで、ありったけの金をすべて愛しい娘のアデルのために使ってきた。

アデルを王太子の婚約者に押し上げるためならなんでもやったためネファーシャル子爵家に蓄えたお金などあるはずもない。


本来ならばアデルが嫁いだことで支度金が手に入るはずだったが、王命を無視してマグリットを嫁がせたことで王家に催促すらできはしない。


アデルはとても美しいがマグリットはアデルの残りカス。

あまりものでネファーシャル子爵家にとっていらない存在だった。

そもそも令嬢として育てておらず、使用人として育てている。

使用人としてはほんの少しだけ有能だったようだが、嫁ぐとなれば話は別だ。


(今更ながら、我々はなんてことをしてしまったんだ……!)


頭を抱えてベルファイン王家とガノングルフ辺境伯の連絡に怯える日々。

折角雇った料理人や侍女たちは膨大な仕事量を訴えては文句を言いながらやめていく。

最初は向こうがおかしいと思っていた。

しかしこれだけ同じように「ありえない!」と怒鳴られてしまえば、こちらがおかしいのかと疑ってしまう。


(こんなはずでは……っ)


アデルがいなくなってから、なにもかもがうまくいかない。

それに追い討ちをかけるかのようにネファーシャル領では毎日、毎日雨が降り続いていた。


(なんだこの天気は……!まるでアデルが生まれる前に戻ったようではないか!)



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