第25話 ネファーシャル子爵side2
ネファーシャル子爵領はアデルが生まれる前までは水害が起きやすく農作物がうまく育たないことから税収も安定せずに子爵を剥奪、もしくは降格される寸前だった。
それがアデルが五歳くらいの頃だろうか。
突如、晴天が続いてネファーシャル領の天気が安定しはじめたのだ。
それからアデルが成長するにつれて天候は安定していった。
他の領が水害に苦しむ中、ネファーシャル子爵領だけは無事なんてこともあった。
農作物もすくすくと育つようになり、税収も安定したことでアデルの珍しい魔法が発覚したのだ。
(アデルは本当に素晴らしい……!神からの贈り物に違いない)
美しいアデルがいればネファーシャル子爵家は安定する。
そう決め込んでいた。
魔法研究所でもアデルの魔法は見たことがない珍しいものだと言った。
アデルに付き添っている際、当時の魔法研究所の所長にアデルに他の力がないか聞いてみたが他の魔法の気配はないと言われてしまう。
所長も年老いていたため、感覚が衰えていたのだろう。
ネファーシャル子爵領の晴天はすべてアデルのおかげだと思い込むことにした。
だがアデルの二つ年下の妹、マグリットは真逆だった。
魔力がないどころかオレンジブラウンの髪とヘーゼルの瞳はどちらの遺伝でもない。
最初は妻の不貞を疑ったがマグリットの顔立ちは自分に似ていたことでその疑いも晴れることになる。
アデルは珍しい魔法を発現したがマグリットは魔力なし。
ネファーシャル子爵家にとって何の力も使えないマグリットは役立たずだ。
アデルがすべてを持ち、後に生まれたマグリットはその残りカス。
幸い、何を命令しても文句も言わず従順に働くことから使用人として使ってやってはいたが、まさかマグリットがいなくなることでこんなにも大きな影響がでるとは思いもしなかった。
何もかもうまくいかない。
鏡に映るのは乱れた髪と服。空腹を訴えて鳴り響く腹の音。
以前の屋敷が嘘のように汚い廊下や部屋を見ていると、ため息しか出てこない。
金も尽きそうになると執事も賃金をもらえなければやめると言う始末だ。
なんとか領民からの税を受け取るまで待って欲しいと頼むが、長年ネファーシャル子爵家にいたくせに金がもらえなければやめるというなど信じられない気分だった。
(クソッ、こんなに金がかかるなんて信じられん!これ以上、使用人たちがやめていけばネファーシャル子爵家の評判が落ちてしまう!)
今日も空は暗く、雨が降り続いている。
ダイニングテーブルに座りながら重たいため息を吐く。
今になってわかるマグリットの価値を認めざるを得ないのか……そう思っていた時だった。
「───さま、お───っ!」
遠くから聞き覚えのある声が届く。
まさかと思って椅子から立ち上がり、雨が打ちつける窓を覗き込む。
するとびしょ濡れの雨の中、薄ピンクの布が見えた。
ハニーゴールドの長い髪は雨に濡れて肌に張り付いている。
自分の目を疑ったが窓を開けて目を凝らしてみるとそこにいたのはまさかの人物だった。
「──アデルッ!?」
声を上げると廊下をバタバタと走ってくる音。
妻がアデルの名前を聞いて慌てて部屋の扉を開けた。
「アデルッ!?アデルがいるのっ!?」
「あそこにアデルがっ!」
指差す先にアデルの姿を見つけた妻は背を向けて、走り出した。
追いかけるように玄関に向かい扉を開くとそこには雨でびしょ濡れになったアデルの姿。
妻は外に飛び出してアデルを抱きしめた。
あんなに探したのに見つからなかったアデルが無事に帰ってきてくれたことに喜びを感じていた。
「アデルッ、ああ……アデル、無事でよかったわ!」
「お父様、お母様っ!」
「よく帰ってきてくれた!アデル、ありがとう」
やはりアデルは天からの贈り物なのだ。
アデルが駆け落ちして屋敷を勝手に抜け出したことすら忘れて三人で泣きながら抱き合っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます