第23話 イザックside4

罪悪感に胸が痛んだ。

マグリットには笑顔を向けていてほしい。

短期間ではあるが一緒に過ごすことでそう思うようになる。

自分が押し殺していた感情がそっと表に出てきてしまう。

幼い頃は力をコントロールできずに持ったものを腐らせて、人を傷つけてはショックを受けていた。


今更ではあるが料理を手伝えている事実に感動していた。

そしてマグリットの言う通りに指を動かすと野菜の皮を剥いていくことができた。


マグリットは手際よく料理を作ってしまう。

まるで魔法のように……。


彼女と話す時間は楽しく一緒に飲んで他愛のない話をするだけで珈琲の味もいつもより美味しく感じた。

部屋に戻ると太陽の温かい匂いがする。


(マグリットと、同じ匂いだ……)


その日は朝までぐっすりと眠ることができた。


それから一カ月、マグリットと共に暮らしていた。

掃除や洗濯、料理を手伝いながらさまざまなことを学んでいたが、マグリットから『ガノングルフ辺境伯はいつ戻るのでしょうか』そう言われるたびに胸が痛む。


今日は言おう、そう決意して朝起きるがマグリットの笑顔を見ると決意が揺らぐ。

彼女から軽蔑の視線を向けられることが何よりも怖いと、そう思ってしまうようになったからだ。


ずっとこのままで……そう思ってしまうほどに居心地がよかったが終わりは突然訪れた。

いつも買い物をしている店でマグリットがどこで過ごしているか聞かれたのだ。

マグリットはガノングルフ辺境伯邸で暮らしていると答えた瞬間、店主たちの顔色が変わった。


(ああ、またか……)


きっと『ガノングルフ辺境伯は恐ろしいから気をつけろ』『危険だから今すぐに出ていった方がいい』というのだと思った。

その言葉をマグリットに聞かせたくなかったのかもしれない。


すっかり街に行く道も覚えたイザックはマグリットの手を引いて屋敷へと逃げるようにして帰る。

こんな気持ちは初めてで自分でもどうしていいかわからない。

しかし屋敷には王都にいるはずのシシーとマイケルの姿があった。

焦ったようにこちらに駆け寄ってくる。


『国王陛下の弟であるイザック様』


その言葉でマグリットに正体が明かされることになった。

良い言い訳も見つからないまま、小さく肩を震わせるマグリットを見て心が痛む。


しかしマグリットを騙していたのはイザック自身なのだ。

いくら謝罪しても足りないだろう。

イザックはマグリットの話を聞いて自分の力を欲する理由は家族に復讐するためだと思っていた。

だけどマグリットにはそんなことをしてほしくはない。



「この責任は取るつもりだ……だが、魔法の力で家族に復讐するのは」


「──その魔法の力を私の料理のために貸してくださいっ!」


「は…………?」


「ジュル……おっと、よだれが」



料理のために、と言われてイザックはその言葉の意味を考えていた。

しかし理解するのは難しい。

ハンカチで口端の涎を拭うマグリットを見てますます何が言いたいのかわからなくなってしまう。

 


「ぬか漬けに味噌、醤油に納豆、魚醤、パン、甘酒、塩麹……!」



訳のわからない呪文を呟いた後にマグリットはこう言って目を輝かせた。



「この世界で私の夢を叶えてくれるのはイザック様、あなただけですっ!」



イザックは何を求められているのかわからないまま、マグリットに握られた手を見つめていた。


(俺の力がマグリットの夢を叶える……?どういうことだ?)


マグリットはイザックの正体がわかったのに、キラキラとした以前と変わらない瞳でこちらを見ている。

それがこんなにも嬉しいのだと思うのと同時に自分のマグリットに対する気持ちを自覚したのだった。



** ┈┈┈┈┈┈** ┈┈┈┈┈┈**

フォローや評価をポチッ☆☆☆としていただけると励みになります(*´ω`*)


ここまで物語を読んでくださり大変嬉しく思います。

ありがとうございます♪

** ┈┈┈┈┈┈** ┈┈┈┈┈┈**


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る