第14話
「イザックさん、たくさん動いてお腹もペコペコですし露店で食べ物を買ってみませんか?」
「……露店で?」
「はい!イザックさんが許可してくれるならですけど」
マグリットが期待を込めた瞳でイザックを見ると、彼は困ったように視線を泳がせながらも頷いてくれた。
「お金は足りるのか?」
「へ……?」
「大型銀貨を一枚しか持っていなかっただろう?」
マグリットは驚きつつもイザックを見た。
しかし冗談を言っている様子はなく、むしろ本当に心配しているようだ。
この国のお金は金貨、銀貨、銅貨とわかれているが、大小と大きさに違いがあり。日本円にすると大型金貨は約十万円で小型金貨は三万円ほどの価値があり、大型銀貨は一万円ほどで小型銀貨は三千円。
大型銅貨は千円で小型銅貨は三百円。
その下には安価な銅貨で赤、黄色、茶色で色分けが行われている。
そう考えるとあの麻袋いっぱいの大型の金貨たちはいくらあったのだろうか。
大型銀貨は一万円ほど。
露店の魚や肉の串焼きやパンにソーセージを挟んだものは小型銅貨でお釣りがくる。
露店で食べ物を買っても食材を買ったとしてもあまるくらいだ。
マグリットは慣れた様子で露店の店主と会話して、魚の塩焼きを二本買った。
その他にもベルファイン王国では定番のパンにソーセージとトマトソースがかかっているホットドッグを二つずつ購入してから買った軽食を食べられそうな場所を見つけてイザックを呼ぶ。
二人で空いたベンチに並んで腰掛けてからイザックに魚の串焼きを渡す。
マグリットは魚の串焼きを空に掲げて感激していた。
焼かれている魚と皮についた塩がキラキラと輝いて見える。
十六年間、待ち望んだ味に口内ではよだれが溢れ出た。
「いただきます……!」
焼き魚のいい香りを久しぶりに感じた。
魚の背の部分にかぶりつく。
少し焦げている皮に歯が当たるパリッとした音が聞こえた。
柔らかいホロホロとした白い身が口の中でとろけていく。
味は淡白ではあるが脂も乗っている。
ほんのりと感じる塩味に思わず「ん~!」と唸ってしまった。
片手で頬を押さえながら焼き魚を堪能していた。
すると横から感じる視線。
イザックは手元にある焼き魚とマグリットの口元を凝視している。
何故イザックが魚を食べないのだろうと疑問に思い、問いかける。
「もしかしてイザックさんは魚は嫌いですか?」
「いや……食べ方がわからなくて」
「あっ、なるほど!」
マグリットはあまり街に来たことがないイザックはもちろん露店でも買い物はしたことがないのだろうと思った。
自分が手に持っている焼き魚を指さしながら説明していく。
「骨がありますから気をつけて食べてくださいね」
「ああ、わかった」
イザックはゴクリと喉を鳴らした後に焼き魚を口にする。
そんな姿も何故かマグリットよりもずっと上品に見えるのが不思議だった。
咀嚼しているのか唇が動いている。
「どうですか?」
「…………うまい」
「え……?」
小さく何かを呟いたイザックの声が聞こえずにマグリットは問いかける。
しかしイザックから返ってきたのは信じられない言葉だった。
「こんなに美味しいものがガノングルフ領にあったなんて信じられない」
「……???」
マグリットはイザックの言葉の意味を考えながら、再び焼き魚を口に運ぶ。
(露店で食べたことがない、という意味よね?イザックさんはわたしより年上みたいだけど知らないことが多いみたいね……)
活気ある街を見ながら焼き魚を食べているとカサカサと紙の擦れる音がする。
視線を送ればイザックは綺麗に焼き魚を食べきり、ベンチに置いてあったホットドッグを手に持って、マグリットをキラキラに期待がこもった視線を向けているではないか。
「マグリット、このパンはどうやって食べればいい?」
「……!」
「まさか、また骨があるのだろうか?」
マグリットと名前も呼ばれたことにも驚いたが、パンとソーセージに骨の心配をしているイザックに二重の意味で驚きを隠せない。
イザックは興奮しているのか、わずかに頬が赤らんでいる。
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