第13話
マグリットは麻袋を指で指しながら問いかける。
まともに働いて得る金貨の量を超えている。
というよりは、この金貨の量は異常ではないだろうか。
怯えた表情を見てイザックは首を傾げていたが、マグリットが何を言いたいのかがわかったのか説明するために口を開いた。
「働いて稼いだものだ。問題ない」
イザックの言葉にそういうことではないと首を横に振る。
「この家のことはすべて俺が決めている」
「イ、イザックさんは随分と信頼されているのですね」
「……ああ、まぁ」
歯切れの悪い返事を気にすることなく麻袋に入っていた大型の銀貨を一枚手に取りイザックに見せる。
「大型銀貨を一枚、持っていきましょう!」
「一枚だけか?」
「はい、買い物にはこれで十分ですから」
むしろこれ以上持って行ったら人攫いにあいそうである。
何故か不満そうに麻袋を見つめるイザックに背を向けてマグリットは出かける準備をしていた。
なんだかよくわからない状況が続いているがマグリットはポジティブだった。
(屋敷を管理しているイザックさんが言うならいいか!)
市場に行って買い物をするのに興奮していた。
食材を入れるためのカゴを持ちながらイザックの手を握り外へと向かう。
「そうと決まれば、早く行きましょう!」
「……っ」
マグリットと繋がっている手をイザックが驚きながら見つめているとも知らずに勢いよく扉から外に出る。
蔦が絡んで痛んでいる屋敷が気になるところだが、今は市場を見ることが最優先だ。
しかしイザックに案内してもらわなければならない。
「イザックさん、街はどちらの道から行けますか?」
「……手を」
「あっ、申し訳ありません。つい興奮してしまって……!」
握っていた手を離すとイザックは視線を逸らしてしまう。
食材のことになると周りが見えなくなるのは昔からだ。
イザックは背を丸めながらマグリットの前を歩いていく。
(……なんだか不思議な人)
イザックについて歩いていくが、なぜか左右に首を振りながら辺りをキョロキョロと見回している。
先ほど、馬車で通った時は街までそんなに遠くなかったはずだ。
しかし先ほどから同じような場所をウロウロしていた。
(もしかして、イザックさんは街に行ったことがない……?そんな訳ないわよね)
ぽそりと「確かこっちだったような」と声が聞こえたような気がした。
「イザックさん、あっちに行ってみませんか?」
マグリットはそう言って馬車から見た景色を頼りに歩いていくと鼻を掠めるいい匂い。
「いい匂いがする」
「そうですね!きっと街も近いですよ」
匂いを頼りに歩いていくと街並みが見えてくる。
建物は道に沿って並んでいてネファーシャル子爵領の街よりもずっと栄えているように見えた。
人が多く活気が溢れているようだ。
「……すごい」
マグリットがそう言うと隣にいるイザックも目を輝かせているではないか。
不思議そうに彼を見ているとイザックは視線を逸らしてしまった。
気まずい空気をかき消すようにマグリットは歩き出す。
「イザックさんもあまり街には来ないのですか?」
「ああ……あまり」
「そうだったんですね」
今日イザックと会ったばかりだからかうまく会話が続かない。
それにマグリットが質問ばかりしていてはイザックも大変だろうと思い口をつぐむ。
(一人でどうやって食材を仕入れていたのかしら?)
イザックの纏う不思議な空気と辻褄の合わない言葉と行動に翻弄されっぱなしである。
気を取り直して買い物を続けていくが、イザックは興味深そうに辺りを見回していて何も知らないように見えた。
マグリットは店の人たちと会話しながら食材を買い揃えていく。
たくさん動いたせいかお腹がグルグルとここまで聞こえるほどに耳に届く。
それはイザックも同じようだ。
先ほどから美味しそうな匂いが色々な露店から漂っていた。
少し図々しいかとも思ったがマグリットはある提案をする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます