第19話

《グレイス視点》


 私の名前はグレイス・ステファニー、100歳だ。


「懐かしいなぁ…もう私だけか」


 手に持っている写真を見てそう呟く。写真には若かりし頃の彼と4人のアメリカ人、1人の日本人が映っていた。

 日本人の名前は宇喜多紺蔵うきたこうぞう。かつて私が殺した日本兵の子供だ。


 あれは沖縄戦の時だった。夜見張りをしていると1人の日本兵が出てきた。私はとっさに見張りについていた4人を呼び出し彼に銃口を向けた。


「投降するのか。日本兵」


 呼び寄せた仲間の1人が日本語が得意だったので代表して語り掛けた。


「投降というかお願いがある。俺は殺してもいい、だが俺が潜んでいた洞窟の中にいる民間人は保護してほしい。俺は帝国軍人だがなんの罪もない一般人がこんな負ける戦に巻き込まれるのはごめんだ。俺は投降はしない。帝国軍人として死ねるなら本望」


 通訳を通してだったが私たち5人は驚いた。なぜなら沖縄戦が始まってからというもの日本兵は民間人を盾にしたような戦い方を繰り広げてきたからだ。

 ただ罠という可能性もあるのでくわしく聞くために身体検査をしてから尋問室に連れていく。1人に指揮官を呼びに行ってもらい尋問室で待つ。


「こんな夜遅くに日本兵だと?しかも自身の命と引き換えに民間人の保護を求める?どういうことだね」


 指揮官が入ってくるなり彼に問いかけた。彼ははっきり答える。


「夜遅くに訪ねてきたのは謝ります。しかし上官の目を盗めるのが夜しかなかったんです。民間人の保護を約束してくれるなら俺は情報を話します」


 指揮官は日本語は話せないが言っている言葉の意味は分かるので通訳なしで聞き取れはする。彼の言葉を聞いた司令官は彼の目を暫く見ていたが何か感じ取ったらしく民間人の保護を約束した。

 それを見た彼は深く深呼吸をして答える。


「ありがとうございます。あなたたちが今対峙している俺たちの部隊は1人1人洞窟に分かれています。しかも民間人と一緒に。そして今日の昼、俺たちの上官があり得ない命令を出しました。民間人を盾にしながら戦えと。その命令を聞いたときに俺はもう日本を見捨てました。帝国軍人として守るべき民間人を盾に戦うなどあってはならないことです。だから俺は民間人を盾にする前にあなたたちに投稿するために1人来たのです」


 司令官は彼の言葉を聞いて大きくうなずいて私達にもわかるように伝えてくれた。

 そして司令官と彼、護衛として私たち5人で彼が潜んでいたという洞窟まで足を運んだ。


「すこし待っていてください。民間人を呼びます」


 そういって彼が洞窟の中に呼びかけると20人くらいだろうか民間人が出てきた。


「軍人さん、戻ってこられたんですね。大事な話とは…もしかして後ろにいるのはアメリカ兵では?」


「あぁ。お前たちを保護してもらうために交渉しに行ってきた。帝国軍人としてお前たち民間人が犠牲となるのは嫌なんだ」


 その後も会話が続けられた後民間人が引き渡された。


「そしたら、私はここで死にます。さあ殺してください」


 そう言う彼に司令官は殺すのは忍びないと思ったのか自刃を進めた。それを聞いた彼は懐から短刀と1つの手紙を取り出した。


「わかりました。そしたら誰か介錯をお願いします。それと最後にもしこの戦争がおわったらこの手紙を私の息子に渡してやってください。家の場所は記してあります。恐らく私は戦死という扱いで処理されるでしょう。真実を教えてあげてください。それでは」


 そういって彼は短刀を自分の腹に突き刺した。


「大日本帝国…万歳‼天皇陛下万歳‼」


 苦しみながらそう口にする彼をこれ以上見てられず私は銃の引き金を引いた。


 戦後、私は彼の息子さんの家に真実を伝えに訪れた。私たちは罵られることを覚悟して彼と対面した。

 そして、案の定1時間ほど罵倒された。だが真実を伝えるとおとなしくなりいろいろ話し始めた。

 紺蔵といった子供は父は当然私たちが沖縄で殺して亡くし、母親も我々による空襲で亡くしたことを話してくれた。

 その後私たちはよく会うようになった。


 思い出に浸りながら私は空を見上げていた。


「お爺ちゃん、これ見てよ。紺蔵さんのお孫さん」


 孫がそう言ってタブレット端末を差し出してくる。私はそれを見ると紺蔵の孫である麒麟がダンジョンを配信していた。しかし普通のダンジョンじゃないかの戦争を模倣しているのだ。


「これはパールハーバーじゃないか。これはミッドウェー…ガダルカナルも…」


 気づけば私は彼の配信にのめりこんでいた。

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