第6話
《麒麟視点》
俺が過去を語った後そのまま下釜の配信は終了した。俺はギルドから報酬を貰い帰ろうとしたが晋也さんに呼び止められ夜ご飯をともにすることになった。
「その、夜ご飯ありがとうございますね。たいしたことはしてないのに…」
目の前に広がる高級料理を見て俺は申し訳なく思いついそんな言葉を口にしてしまった。言い終わってからまずいと思って下釜親子を見るとほほえましそうにこちらを見ていたので少しホッとする。
「たいしたことって…。君は娘の命の恩人だ。さらに君の両親のおかげで娘は探索者を志した。これくらいどうってことはないよ」
晋也さんはそう言って慣れた手つきで高級そうな料理を食べる。さすがは世界の下釜社長だと思いながら俺もそれに倣い食べ始めると下釜から微笑まれた。
「Sランク探索者ともあろう人が高級料理を食べなれていないので?」
「いや、俺は基本緊急の依頼以外でダンジョンに潜ることはしないからそれだけのお金がないんだよ」
そう、俺は爺さんの推薦でSランク探索者になった後は基本ダンジョンに潜らずにギルドや国からの緊急での依頼しか受けない。
理由は単純にめんどくさかったから。それと俺が潜れば面白くないと思う探索者もいるだろうしそんな奴らに邪魔をされて怪我をしたくないからだ。
「ま、麒麟君が配信者になるって言ってくれてよかったよ。最前線で潜っている探索者は何も情報がないから犠牲者も増える。だけど麒麟君が配信者としてモンスターの情報とかいろいろ発信してくれたら犠牲者も減るんじゃないかな。ということで、お父さんはしっかりとした配信機材を渡してよね」
娘から矛先を急に向けられた晋也さんは口は笑っているが目は死んだ魚をしている。それもそうだ、俺が配信者としてダンジョンに潜ったら当然深いところまで潜る。その深い階層モンスターの攻撃に耐えられるだけの配信機材を用意しなければならないのだ。
「うーん、耐えられなくても俺が少し強化とかするんで気にしないでもいいですよ。そんなに考え込まれて倒れられても俺が責任を感じますから」
俺がそういうと晋也さんの目に生気が戻ったので少しホッとする。その後も雑談をしながら食事をつづけお開きとなった。
翌日、俺は朝いちばんに学校に行きグラウンドで日課になっている素振りをしていた。
「あら、今日は早いのね。ちょっといいかしら」
不意に話しかけられ振り向くと、ダンジョン史の授業を担当する先生がいた。
言い忘れていたが俺が通う学校は探索者としての技術を学ぶところであり、その他の学問はあまり教えられていない。最近は授業風景を配信していることでも話題になっている学校だ。
「あ、先生。おはようございます。何の用ですか」
俺はタオルで汗を拭きながら代用の片手剣をしまった。ちなみにこの代用の片手剣、実は俺が昨日のうちに広告紙を自身の魔力で剣の形にしたものだ。なので殺傷能力は全然ない…と思いたい。
「今日の授業は全校生徒で探索者の歴史について配信しながら学ぼうと思ってるんだけれども、Sランク探索者の麒麟君にちょっとした技術を生徒の前で披露してくれないかと思ってね。あとは、質問に答えてくれたりしたらうれしいんだけども」
「あー全然大丈夫ですよ。ただ条件があります。国やギルドからの依頼が来たら授業中でも即座に動きたいのですが…」
そうなのだ。これまでギルドも国も俺が学校にいるときは遠慮して緊急の依頼でも伝えてこなかった。それで代わりに受けた人が亡くなるということが多くあり非常に申し訳なく思っていた。
「それなら全然かまわないわ。正直こんな学校に来る理由がわからないもの」
「ありがとうございます。この学校に来た理由はそうですね…友達を作るためですかね。祖父が俺と同じくらいの年齢の時はもう学校なんかいかず潜りっぱなしだったそうですから。そのせいで同年代の友達がいなくて寂しかったらしいです。そんな話を聞いていたので俺はこの学校で友達と呼べるような存在を見つけようと思いますね」
俺がそう話すと先生は苦笑いになりながら去っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます