第5話

《麒麟視点》


「俺の場合は爺さんに小さいころから剣術を徹底的に叩き込まれましたね。あと両親がその当時日本一のダンジョン配信者ということもあってその様子を配信されてましたね。あれは本当にきつかったです」


 俺が当時のことを思い出しながら懐かしいむ。

 あれは小学校に入学する少し前だっただろうか。爺さんに「わしもお主の両親も探索者だから徹底的に鍛えるぞい」といわれて散々打ちのめされた。両親が夫婦でダンジョン配信者だったこともあって当時の俺の様子が今も残っている。


「す、すまない。ちょっとデリカシーがなかったよ。まさか鈴があこがれていた配信者の息子さんだって。ただ、父親は…」


 晋也さんが言葉を詰まらせる。ギルド内で配信していることもあって聞いていた探索者も動揺を隠せない。コメント欄を横目でちらっとみる


・まさか麒麟君がたこやきchの息子さんだったなんて

・その配信見たことあるわ。あの時はかわいかったけどこんなに立派になってるなんて…

・父親のことはショックだっただろうなぁ。あれ以来母親に育てられたのか。

・たこさんの事件以来動画上がることなかったもんね


「いや、もう吹っ切れましたし大丈夫ですよ。その、小学二年生の夏休みにその父がワイバーンに殺されるところ…配信見てましたから。それと一つコメントで誤解があるようなので言っておきます。両親のチャンネルの動画が上がらなくなったのは翌日に母が父のあとを追ったからです。今でも鮮明に覚えてます。というか忘れたくても忘れられません俺が夜中トイレに起きたら横で母が使っていた武器で首を…」


 そこまで言って全員が理解したのだろう。その場にいた人は涙していた。

 そう、俺は今でも覚えている。母が頸動脈を斬って父のあとを追ったこと。その時の血の感触…。忘れようとも忘れることができないのだ。


「その、つらい記憶だったね。すまなかった。君の強さはお爺さんから受けついだものだったんだね」


・最強の祖父に育てられた結果あの規格外の強さが誕生したと

・もう…なんていえばいいか分からない

・やっきーもさすがに夫を亡くして自暴自棄になったんだろうな。


「いや、全然大丈夫ですよ。そのあと俺は爺さんの推薦でSランク探索者に推薦されました。それが爺さんがなくなる1か月前のことですね。今でも爺さんが最期に俺に語り掛けた言葉が耳に残っています。その言葉と母の遺書、と俺が有名になった時は公開してほしいと書いてあったビデオを…」


 そういうと俺は忘れないようにメモっていた紙を取り出す。


「元Sランク探索者の…最期の言葉…」 


 その場にいた誰かがそう呟いた。誰もが憧れた日本で初めてのSランク探索者になった人の言葉だ。メディアにも公開されていない。いうなればメディア初だ。

 俺はちょっと場面が想像できるように物語風に語りだした。


「俺はその日学校でした。だけど昼休みに爺さんがもう長くないと連絡が来て先生に爺さんが入院している病院まで乗せてもらいました。病室につくと担当医師が申し訳なさそうに『もう、長くはないです。意識も朦朧としていて心拍も下がってきてます。私たちは暫く退出しますので最期は一緒にいてあげてください』といわれ俺は爺さんに呼びかけました。すると爺さんが目を開けこちらを見て優しく笑ったんです。今までそんな表情を見せなかった爺さんをみて俺は両親を亡くした時以来久しぶりに泣きました。爺さんはそんな俺の涙をぬぐいながら『麒麟や、わしからの最期の言葉じゃ。わしの父はな、太平洋戦争の沖縄戦で亡くなった。沖縄戦の終盤、負けを悟った父は洞窟にいた民間人を助けるために、一人アメリカの陣地に乗り込み、自分の命と引き換えに民間人の命を救ったのじゃ。父がアメリカ兵に殺されたことを知ったわしはアメリカを憎んだ。祖父も海軍でイギリス軍の捕虜にされ殺された。終戦直後のわしはそれこそ鬼畜米英許すまじと思っていた。そんなあるときじゃ、家に5人のアメリカ兵が父の遺骨をもって訪ねてきた。わしはそのアメリカ兵にこれでもかというほどの罵声を浴びせた。お前らのせいで父は無様に殺されたと1時間ほど罵倒した。しかしじゃ、アメリカ兵は「君が私たちを散々罵倒しようが構わない。君の父親を殺したことには変わりないのだから。ただこれだけは知ってほしい。君の父親は私たちが知る限り日本一の帝国軍人として誇りを胸に死んだんだ。民間人を守るために」そう言ってきた。その時、わしの中に父みたいになりたいと思ったんじゃ。ダンジョンがこの世界に出現したときわしは真っ先に潜った。戦時中に父に教わったことで戦いぬいてSランク探索者になっていた。その過程で幾人もの人を助け感謝されてきた。麒麟や、人とのコミュニケーションが苦手でもいい。ただ、危機的状況の人を見つけたら必ず助けなさい。お主はもうわしの全盛期をはるかに超えておる。わしの父が、そしてわしが誰かの英雄になったように、お主も誰かの英雄になりなさい。そしてわしがなしえなかったことをなせ。わしはいつまでもお主を空から見守って…おる…ぞ…』そう言って。爺さんは息を引き取りました。俺は爺さんの言葉を聞いて世界の英雄にはなれなくとも誰もが誰かの英雄になることはできるんだと…そう心から思いました」


・う、ええ話や…

・天国のお爺さん、あなたのお孫さんは立派な英雄になりましたよ

・お爺さん、終戦直後めっちゃ荒れてたんやな

・お爺さんのお父さんの話も泣いたわ


 そういうコメントが流れ、ギルド内を見渡すと誰もが涙していた。俺は次に母さんの遺書を取り出した。遺書は見つかった時血が少しついていたので黒い血痕が今も残っている。


「それじゃ、母が俺に書いたであろう遺書を読みますね。『麒麟へ、これを見ているってことはお母さんはもう星になってると思います。本当はあなたをきちんと育てたかった。けれど配信を見たからわかると思うんだけどお父さんがモンスターに殺されてどうしていいのかわからなくなりました。お爺さんにこれから育ててもらってね。お母さんはお父さんと一緒にいつまでもあなたを見守っているから。最後にこのビデオを麒麟に託します。もし麒麟が有名になってその時にビデオを憶えていたら公開してください。私から視聴者に向けたメッセージが込められています。さようなら…私たちの可愛い息子』と、そしたら…モニターでビデオ、流しますね」


 俺はギルドにあるモニターに母さんのビデオを入れながすことにした。ギルドにいたほとんどの人が母さんたちの視聴者だったので全員モニターにくぎ付けになる。下釜はカメラを切ってモニターの画面をカメラの通信機能で配信していた。

 最初は簡単なオープニング映像から入り母さんの姿が映る。しかしいつも明るかった母さんの面影はそこにはなかった。


『どうも、たこやきchのやっきーです。これが公開されているってことは麒麟が有名になったのかな。まぁ見ている皆様、これまで配信を見ていただきありがとうございました。この動画は夫であるたこさんが殺された後…何もできなかった自分の無力感を感じながら撮っています。この動画を見ているということはもう私は死んじゃってるよね。勝手なことをしてしまったのは分かっています。まだ幼い麒麟を残して私がたこさんのあとを追ったことを許してくださいとは言いません。しかし、これまで私たちを応援してくれた人たちにお願いがあります。麒麟がもし配信者になっていたら私たちと同じように見てくれませんか?私は見ることはかないませんがかっこよくなってるだろうと思います。それでは皆様…さようなら。私の大好きな視聴者たちへ』


 動画は2分程度だったがそこには配信者としての母さんの姿があった。俺がずっとみていた母さんの姿が…


・やっきー、よほどたこさんの死を受け入れられなかったんやろうな

・やっきー、麒麟君はすっかり有名人ですよ

・懐かしいなぁこの声


 そういうコメントで埋め尽くされる中ギルドでは俺以外の全員が泣き崩れていた。その光景を見た俺はどれだけ母さんたちがすごかったのかを改めて知った。

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