第3話

《鈴視点》


 あぁ、私死ぬんだ。中学2年から配信者として生きてきて大勢の視聴者の前で…

 私…下釜鈴はそう思い目を閉じた。瞼の裏に思い浮かぶのは高校に入学してからの親友の姿。


「短い…人生だったなぁ」


 ごくわずかな声量でつぶやいた次の瞬間、キンッっという音とともに体が吹き飛ばされた。

 しかし誰かに包み込まれる感触があり誰かが助けにきてくれたのだと安心した。


「もう大丈夫だ。ドラゴンは俺が倒す」


 その声には聞き覚えがある。目を開け声の主を見ると私と同じクラスで比較的陰キャの宇喜多麒麟…その人がいた。ただ学校で見る麒麟君と今の麒麟君の印象が違い過ぎた。


「もしかして麒麟…くん?」


 私がそう聞くと頷いた。そしてギルドに報告してくれた視聴者のSランク探索者コメントを思い出し安心した。

 正直驚いたが自身のクラスにSランク探索者がいたことを誇りに思いながら生きていることに感謝して涙を流した。

 私はもう配信のことは忘れてSランクの戦いを目に焼き付けようとした。しかし麒麟君はちらっと横目でカメラを見てから言った


「安心しろ下釜、お前は死なせやしない。お前の配信を見ている視聴者の為にも」


 その言葉に私は体が熱くなるのを認識した。麒麟君が言った一言で恋に落ちた。頭がボーっとしながら麒麟君の戦いを見守った。


《麒麟視点》


 俺はドラゴンの鑑定をさらに詳しくしようとしたが下釜をほたっておくのは申し訳ないと思い視線を下釜に向ける。

 視界に映ったカメラは俺を移していたがそんなのはどうでもいい。というかむしろ今の下釜は映せたものではない。恐怖のあまり失禁していたからだ。俺は異空間ボックスから着替えを取り出し投げ渡した。


「えーっと下釜さん?とりあえず配信用カメラとかこっちで預かってるから着替えようか。このまま映したら将来お嫁に行けなくなるかもしれないから」


「え、あ、き…麒麟君ありがとう。絶対カメラこっちに向けないでね」


 はじめは意味が分からないというような顔をしていたが自分の今の状態がわかると顔を真っ赤に染めながらそういって俺の目の前で着替え始めた。

 俺は絶対に見ないようにしながらこの時間が暇だろうと思い下釜に許可を取ってからコメント返しをすることにした。


「えーっと今下釜さんが取り込み中なので俺がコメントを返しますね。っとその前にこのドラゴンを詳しく調べましょうか」


・【探索者ギルド東京支部】 そのドラゴンなんですがギルドに帰ってきてから調べてくれませんか。我々が知らないドラゴンということでダンジョン庁も調べたいそうですので。

・鈴ちゃんを助けてくれてありがとう!

・鈴ちゃんとはどういう関係?

・探索者ギルドからコメントきとるでぇ


 そのようなコメントが滝のように流れていく。俺はそれを見ながらピックアップして答えていく。


「了解しました。ドラゴンはまだ吸収されてないようなので持って帰りますね。下釜さんの視聴者の皆さんすみません。俺なんかが映ってしまって。一応自己紹介しておきますね。Sランク探索者の宇喜多麒麟です。下釜さんとは高校のクラスメイトですね。皆さんが思ってるような関係ではないです。本当に下釜さんが助かってよかったです」


・クラスメイトということは高校一年生でSランクなの⁈

・す、すごすぎて言葉が出ない…

・最後のブレス攻撃素手で迎え撃ってなかった?

・初めてSランクの戦いを見たけど次元が違い過ぎる。

・片手剣…麒麟の爺さんの形見かなんかか?

・宇喜多っていう名前のSランク探索者十年くらい前にいなかったか?


「はい。高校一年生ですよ。それで、俺の爺さんは視聴者の予想通り十年前までSランク探索者でした。もう1年前に亡くなってしまったんですけどね。蒸発してしまった片手剣は爺さんがなくなる前にくれたもので爺さん曰くたいした性能もない剣らしいですけど…俺があの後調べてみたら1億円近くするものでした。あ、下釜さんが戻ってきましたね」


 俺は下釜が着替え終わって戻ってきたのを確認しカメラなどをかえした。


「あ、麒麟君…助けてくれてありがとうございます。この恩は必ず返します」


 顔を赤くした下釜がそうお礼を言ってくる。まぁ顔が赤いのは恥ずかしい姿を見られたというのもあるかもしれない。


「い、いや俺はギルドから依頼されて討伐しただけで…まぁ無事でよかったです。改めて思いましたけど下釜さんって人気なんですね。コメント返ししていて新鮮な気分でした。俺も配信がしてみたいと思うくらいには。で、下釜さんはまだ配信続けるんですか?」


 俺がそう聞くと考えるそぶりを見えたがよほど恐怖だったのだろう。体がまだふるえていた。

 まぁ中層にドラゴンが現れたってだけでトラウマになってるんだろうなぁ。


「今の状態でいつもの配信できるはずがありません。戻ります。それで、麒麟君…一緒にいっていいかな…」


・まぁ今日はダンジョン配信無理だろうな

・トラウマ与えられたもんね

・今日は仕方ないか

・麒麟、配信者になったら絶対見に行くわ

・俺もだな。Sランク探索者の配信、興味しかない


「まぁぜんぜんいいよ。ちょっと急いではいるから配信機材しっかりもってこっちにきて」


 俺は探索者としてのスイッチを入れて下釜にこっちに来るように誘導した。まぁ本人は下釜の気持ちなんて考えずに。


「急いでるって…何する気?もしかしておぶってくれるの?」


「いや、俺も配信してみようとおもってさっさと戻って鑑定して機材階に行くわけ。下釜さん、振り落とされるかもしれないからおんぶはしないよ?俗にいうお姫様抱っこ…とかいうやつが一番いいんだけど。全力で走るから」


・麒麟、まじで王子様だわ

・鈴ちゃんの顔が赤い、これは恋してますな

・全力で走るってそんなにやばいんか…

・あ、鈴ちゃん抱っこされた


 下釜は赤い顔をさらに赤くしながら俺に抱っこされた。

 ドラゴンの死体、そのまま持っていくか。

 そう思い異空間ボックスにドラゴンを収納して腰を落とした。


「下釜さんしっかり掴まっててよ。あと機材とか服とか落とさないでね。視聴者の皆さん、画面が激しく揺れるかもしれないのでご了承ください」


 そう言って俺は力いっぱい地面をけった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る