第5話


「あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない学に私以外の彼女とかそんなの絶対にあり得ない普段から寝取られ大好きとか公言していて頭のおかしいことしか言わないのに彼女が出来ること自体がそもそもおかしい確かに学は大人気ラブコメ漫画家で登録者100万人を超えるⅤtuberで人形作れるくらいの呪力があったり悪魔を召喚して使役できる魔力もあって同じ性癖を持ってて人類総ネトラレ計画を企むマッドな博士にコピーロボットを作られてもうひとりの自分と戦ったり超絶カッコイイイケメンで裸ワイシャツが似合う恥美的なボディの持ち主で今すぐ襲い掛かりたくなるフェロモンを放っているけどそれでも彼女が出来るのは絶対おかしいよく考えたら学のスペックおかしいけどそれでも寝取られに脳を支配されている学を好きになる女の子なんて変人か頭のおかしい子しかいないからそんな子を私の学に近づけるわけにはいかない守護らなきゃ私が学を守護らなきゃそうしないと私たちの未来の危険が危ない」


「あ、あのー。燐子、さん? さっきからすごい勢いでなにブツブツ言ってるの? すっごい怖いんですけど」


 さっきから焦点が合ってない目をぐるぐると渦巻かせながら、おかしなことをひたすら呟き続けている幼馴染に、俺は盛大にビビっていた。

 なまじ美人なだけにその迫力はとんでもなく、下手をしたらちびりそうだ。

 寝取られが好きでなければ危なかっただろう。現実逃避がてらに、自身の寝取られ好きに深い感謝と祈りを捧げていると、


「学」


「お、燐子。ようやく正気に」


「学、今から病院に行こう。今の学は頭がおかしい」


「なんてことを言うんだ、お前は」


 さっきから正気を失っていたやつに、頭がおかしいとか言われたんだが。

 俺から言わせてもらえば、今の燐子のほうがよほど正気じゃない。


「よく聞いて学。学に彼女が出来るはずがない。学は今、幻覚を見ているの。もしくは誰かに見せられている。これは誰かの罠に間違いないから、今すぐ病院に行って頭を検査してもらう必要がある」


「それはさすがにちょっと失礼すぎない?」


 燐子は俺をいったいなんだと思っているんだ。

 寝取られが大好きなだけで、俺は至って正常だし正気そのものだというのに。まるで解せない。


「とにかく行こうさぁ行こう。なんなら平坂先生のところに行って、頭を丸ごと見てもらう。なんなら手術してもらおう」


「おいやめろ! 俺をあのマッドのところに連れて行こうとするな! 解剖されたらどうするんだぁっ!」


「大丈夫。その前に私が潜入して救い出す。脳改造の前に助け出せば身体も強化されて、むしろお得かもしれない」


「んなはずねーだろ!? 俺はラ〇ダーになりたいわけじゃねーんだよ!? とにかくやめろ、誰か助けてぇっ!?」


 俺の寝取られ力を常日頃から研究しようと企んでいるマッドドクターのところに連れて行こうとする燐子と格闘すること数十分。

 昼休みももう少しで終わるというところで、苦労の甲斐もありようやく燐子は正気に戻った。


「ごめん、学。迷惑をかけた」


「いや、ほんとにな? ほんとにお前ひどかったからな? いろんな意味で」


 抵抗しまくったせいで今の俺の恰好はボロボロであり、はたから見れば暴漢に襲われたと思われてもおかしくない有り様である。

 制服もところどころがほつれているし、これで燐子と一緒に教室に戻った日には事後だと思われるかもしれない。身体はまだ童貞だというのに、謎の既成事実が発生されては大いに困る。


「確かに私が悪かったけど、学にも悪いところはある。いきなり彼女が出来るだなんて言われて、私はショックだった。まるで脳が破壊されたみたいで、気分最悪」


「なんだと……!?」


 燐子が言い放った単語に思わず食いつく。


「り、燐子。お前、脳破壊されたって言ったのか、ほんとか!?」


 脳破壊。断じて聞き逃せない言葉だ。

 俺にとって至高の言葉でもある。寝取られ大好きな俺にとって、脳破壊は切っても切れない関係なのだ。


「言ったけど、それがなに?」


「羨ましい……」


「え?」


「羨ましいって言ってるんだよ!? 俺だって脳破壊されたいっていうのにいいいいいいいっっっ!!!」


 俺は悔しかった。いつの間に燐子は脳破壊を経験したっていうんだ。

 俺だってまだ脳を破壊された経験はないというのに。美少女だからといって、そんなことが許されていいのか。この世はいつだって理不尽すぎる。


「……やっぱり学はおバカ。こんなんで彼女なんて出来るはずがない。心配した私がばかだった」


「畜生……ちくしょおおおおおおおおお!!! 脳破壊されてえよおおおおおおおおおおおおお!!!」


 呆れる燐子と鳴り響くチャイムの音を尻目に、俺はあまりの悔しさからただ吠え続けるのだった――――


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