第4話

「うーん、迷うなぁ」


 ベンチに座り込んで10分ほど経っただろうか。俺は今もスマホを食い入るように見つめながら、迷っている最中だった。


「あの子もこの子も可愛いし、どの美少女に俺の寝取られ童貞を捧げればいいんだ……」


 人間、選択肢が多いと迷うものだ。

 それが自分の童貞を捧げる相手となれば尚更である。

 身体は未だ清いままだが、心の初体験相手となるとどうしても慎重にならざるを得ない。


「学、学」


「ん?」


 画面から目を離さず唸っていると、不意に肩をちょんちょんとつつかれる。

 なんだろうかと顔をあげてみると、そこには不満そうに頬を膨らませている燐子がいた。


「なんだよ、燐子。もうタ〇タニックごっこは終わったのか?」


「そんなことはしてない。というか、そんなことはどうでもいい。私は今怒ってるの。なんでなのか、学には分かる?」


 いきなり分かる? なんて聞かれても、分かるはずがない。

 自慢じゃないが、女子の心理が分からないことには定評があるのだ。それでもしばし頭をひねった後、俺は言った。


「突然の生理でも来たとか? もしくは寝取られが覇権ジャンルじゃないことが許せなくて怒りがこみあげてきたとかかな?」


「違う。ぜんっぜん違う。大外れだし的外れ。学は全然学ばない。一回その寝取られが全ての思考を捨てたほうがいい。そんなんじゃ、社会で生きていけるはずがない」


 目を吊り上げて怒り出す燐子。

 どうやら俺の答えは間違っていたらしい。結構なマジギレをしているようで、なまじ美人なだけにかなり迫力がある。

 そんな燐子をいさめながら、俺は続ける。


「お、落ち着け燐子。悪かったって」


「なにが悪かったか分かってないのに謝っても意味はない。さっきも言ったけど、私は怒ってる。それは学が告白すると言いながら、放置プレイをかましたから。大抵のプレイには付き合ってあげてもいいけど、あれは良くない」


「いや、放置プレイとか言われても……」


「とにかく、私は傷付いた。責任を取ってほしい。今すぐ告白してくれれば、許してあげないわけでもない」


燐子の言葉に、俺は眉をひそめる。


「告白? 俺は常に寝取られが好きだと告白しているぞ?」


「そういうボケはいい。天丼されても誰も喜ばない。いい? 学が、私に、告白する。それを私は求めているの。正しく理解できたなら、可及的速やかに実行してほしい。私だって、そこまで気長なわけじゃない。放置プレイはもう勘弁してほしい」


 ぶすっとした様子で、燐子はそんなことを言ってくる。

 言いたいことがようやく理解したが、それはそれでやっぱり意味が分からない。俺も口をとがらせながら、改めて燐子に向き直った。


「は? なんで俺が燐子に告白しないといけないんだよ」


「…………?」


「いや、首を傾げられても困るんだが」


 なにいってんだこいつという顔をしている燐子だったが、それはこっちのセリフである。


「だって、学は告白するって言った」


「まぁそれは確かに言ったな」


「なら、告白相手は私以外ありえない。そうでしょ?」


「いや、それは違うが」


 そこは否定させてもらう。別に燐子に告白するつもり全然ないし。


「は? じゃあ告白って」


「お前以外のやつにするの。そんで彼女になってもらうのよ。つまり、俺もいよいよ(寝取られ)童貞じゃなくなるって寸法さ! ヒャッホウ!」


 最後はテンションが上がってしまい、ついはっちゃけてしまったが、言ったことに間違いはない。

 だが、俺の言葉を聞いた燐子は何故か大きく目を見開くと、俺の両肩を掴んでくる。


「は?」


「いや、は?と言われても」


「は?」


「だから、俺付き合って童貞捨てるんだって。OK?」


「は?」


「いや、だからさ。てか、あの。肩痛い……」


「は?」


「だからその、力つよ」


「は? は? は? は? は? は?」


「あ、あの。燐子さん?」


「は? は? は?は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は? は?は? は? は?」


「あの」


「は?」


 どうしよう。燐子が壊れちゃった……



♢♢♢



学くんはこれまでの短編世界のルートを全て通ってきてもらったと思ってもらえると助かります。朝チュンだけは土下座で回避してきたので未だ童貞のままです。

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