第3話
「うん、まさかバッタリ学と会えるとは思わなかった。やっぱり私たちは赤い糸でつながっている。運命のふたり、だね」
頬をぽっと赤らめながら、会って早々訳の分からないことを言う燐子だったが、これはこいつにとって平常運転だ。
運命だの結婚すべきだの裸ワイシャツで朝チュンしようだの、会うたびにそんなことを言ってくる。
姫カットの黒髪に大きな目、基本無表情だが人形のように整った顔立ちは、確かに学校一の美少女と呼ぶに相応しかったが、口を開けば電波が混じっているとしか思えないことを言ってくる不思議ちゃんだ。
俺は自分のことを客観視できる男なので、そんなことを言われても真に受けるほどチョロくはない。いつも通りスルーして、話を聞くことにした。
「あぁ、確かにあんまりこないところだからな。燐子はなんでここにいるんだ?」
「ん。男子に呼び出されたの。さっきまで告白されていた」
「おお、マジか」
やはり燐子はモテるようだ。
昼休みの中庭に呼び出されて告白されるとか、漫画のようなイベントが起きていたとは。
ちょっと感心していると、何故か燐子は俺の前にグッと親指を突き出してくる。
「安心して。しっかり断っておいた。私の好きな人は昔からひとりだけ。告白してくれるまで、私はいつまでもフリー。告白いつでもどこでもバッチコイだから」
サムズアップのポーズを取りながらドヤ顔を浮かべる燐子。
燐子に好きなやつがいるのは初耳だったが、さしてショックはない。むしろちょっと興奮する。早く付き合ってくれていたら俺が先に好きだったのに……!とBSSを味わうことが出来ていたかもしれないな。
「ふーん、そうなんだ。一途なんだな。俺の寝取られ一筋だから分かるぜ。お互い頑張っていこうな」
「学はいつもそればっかり。まぁいい。付き合ったら、私がしっかり矯正してあげる。なんなら今すぐでも告白してくれても一向に構わない」
ふんすと鼻を鳴らす燐子。
対し、俺は少し目を丸くする。
「お、よく分かったな。実は俺、これから告白するつもりだったんだよ」
「え、ほんと」
「ああ、俺にもついに彼女が出来るってことだ。確実に成功するとは分かっているが、少しばかり緊張するぜ」
レンタル彼女を選んで呼び出すだけとはいえ、俺にとっては初体験だからな。
金を払う=告白するだけで、過程をすっ飛ばして選んだ女の子が彼女になる……なんて素晴らしいシステムなんだろう。改めて感銘を受けて身体が震えるも、何故か燐子も震えていた。
「ついにこの時が来るとは……私は、この瞬間をずっと待っていた」
「え、そうなの?」
「うん。学が寝取られがどうとか言い出して頭がおかしくなったり、私そっくりのダッ〇ワイフを作ったり、寝取られの儀式とか言って悪魔を呼び出して憑りつかれてますます頭がおかしくなったり、これまでいろいろあったけど、付き合えるというなら文句はない。私はいい女だから、これまでのことは全部水に流してあげる」
水に流すとか、燐子はトイレにでも行きたいんだろうか。
さっさと行けばいいのにと思っていると、何故か燐子は目を閉じた。
「さあ、カモン学。いつでもバッチコイ。愛を囁いて私と裸ワイシャツで朝チュンしよう」
そう言って両手を広げる燐子。
タ〇タニックごっこでもしたいのかな? 俺はそっとしておくことにした。
燐子は時々自分の世界にトリップする癖があり、ある意味いつものことであったからだ。付き合ってやってもよかったが、今はちと時間が惜しい。俺は俺でやるべきことがあったからな。
「さて、とりあえず寝取られるためにも、サイトに登録しないとな」
目を瞑り女神像のようなポーズを取り続ける燐子から離れると、俺はいそいそとベンチへと向かうのだった。
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