第33話 反撃の狼煙
キュアとシャサールを追い駆けよう。
しかしそう提案するエルフ達を、アルシェは引き止めた。
シャサールに話を聞かれた。
その事実が、アルシェの心を搔き乱したからだ。
(何で? 何でシャサールがあんなところにいたの? まさか私の事を疑って、私達の話を盗み聞きしようと? そんな、有り得ない! だってシャサールは私の物なのに! 長年私の傍に置いて作り上げた最高傑作なのに! シャサールは無条件で私の味方をするハズでしょう? それなのに何で私を疑った? 何であの女を連れて逃げた!?)
シャサールは幼い頃から自分の傍にいた。
そのため魅了の魔女の力を一身に受けて、完全なる自分の僕と化しているハズなのに。
自分がいないところであの女に誑かされるならまだしも、自分が間近にいたのに別の女の味方をするなんて。
そんな事は有り得ない。
彼は自分に忠実な、最高の僕のハズなのに。
一体、どうして……。
(ああ、そうか)
そこでふとアルシェは気付く。
キュアもまた、魅了の魔女に近い力を持っているのではないのか、と。
(だからシャサールを味方に出来た。私が掛けていた魅了の力を更に上塗りする形で、自分の魅了の力を掛けたのよ。だから私がいない間にシャサールを味方に出来たし、一緒に暮らしていたエルフ達もみんな虜に出来たのよ)
魔女の力を使って、人の物を簡単に奪って行くなんて……。
あのアバズレ女! やり方が卑怯なのよ! 絶対に許さない!
(と言う事はあの女、レオンライト様の事も魔法を使って奪って行くつもりだわ!)
エルフと狩人、そして王子も含め、全てを自分の物にしようだなんて有り得ない!
今に見ていろ、クソ女。
とっ捕まえて惨たらしく殺してやる!
(そうよ、私にはまだ駒がいるんだから)
ガチャリと音を立てて、扉が開かれる。
入って来たのは、ダーク。
今現在の、一番の忠実な僕。
「アルシェ大丈夫? 動けそう?」
「ええ、大丈夫よ、ダーク。取り乱してごめんなさい」
「お兄さんがキュアに騙されて連れて行かれてしまったんだ。落ち込むのも無理はないよ」
「励ましてくれるのね。ありがとう」
ホッと表情を和らげたアルシェは、ダークの胸にそっと身を寄せる。
ビクリと、ダークの胸板が震えたような気がした。
「あなたがいてくれて良かった。あなたがいなければ、私はきっと全てを諦め、スノウ姫の身代わりとしてこの身を差し出していただろうから」
「キミにはオレも、みんなも付いている。諦めちゃダメだ」
「ありがとう、ダーク」
そっと体を離し、うんと背伸びをしながらダークの首に腕を絡める。
触れるだけのキスを交わした後、二人はそっと手を絡めた。
「行こう、アルシェ。自由を勝ち取る戦いに」
「ええ、行きましょう、ダーク」
向かうは、まだ魅了の力が掛かっている多くの兵士や重鎮がいる城。
そこへ行き、誘惑の魔女討伐を願い出る。
おそらくあの女は花畑へ行き、レオンライトをも虜にしているのだろう。
ならばこちらは城の軍隊とエルフ達を連れてあの女の下へ行き、武力を持って彼女らを取り押さえる。
その後、あの女と邪魔な姫は適当な理由を付けて処刑させ、シャサールとレオンライトには、もう一度魅了の力を掛ける。
それで全てが終わる。
シャサールもレオンライトも手に入れ、今度こそ『アルシェと七人のエルフ達』の物語の完成だ。
(魔女を倒し、私はみんなに祝福されながら王子と結婚するの。完璧なフィナーレだわ)
迎えるのは『アルシェと七人のエルフ達』のフィナーレか。
それとも『白雪姫と八人のエルフ達』のフィナーレか。
エンディングはまだ、分からない。
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