第31話 合流

 人一人抱えてこのスピードで走る事が出来るのは、さすがと言うべきだろう。

 しかしこのスピードで走り続けられては、目が回ってしょうがない。


 疾風の如く走るシャサールに抱えられたままのキュアは、とにかく下ろしてくれと声を上げた。


「シャサール下ろして! 自分で走れるから!」

「怪我をしているだろう。大人しくしていろ」

「してないし! あと、この縄も解いて!」

「もう少し付けておけ。似合っているぞ」

「似合っているって何!?」


 しかし全く聞く耳を持たないシャサールに抱えられたまま、キュアは目的地まで運ばれる。


 シャサールが目指していた場所は、夕暮れ時の花畑。


 そこでようやくキュアを解放すると、彼は彼女を拘束していた縄もやっと解いてくれた。


「あ、ありがとう、シャサール。その、助けてくれて……」


 色々あったが、助けてくれた事に変わりはなく、キュアは素直に礼を述べる。


 しかしあろう事か、シャサールは「ちっ」と小さく舌を打った。


「そう思うんなら、大人しく抱かれていろよ」

「え、何?」

「別に。何でもない。それよりも、キュア……」


 そこで言葉を切ったシャサールが、真剣な眼差しをキュアへと向ける。


 その瞳に捕らえられている自分の姿。


 それにドキッと胸が高鳴ったのは、どうしてだろうか。


「毎晩、男を取っ替え引っ替えして遊んでいたというのは、本当か?」

「……は?」

「お前と一緒に住んでいたエルフは家族ではなく、セフレだったのか?」

「……」

「お前は、クソビッチなのか!?」

「違うわ! 何の話よ!?」

「何って、さっきアルシェが言っていたじゃないか! ちゃんとクローゼットの中で聞いていたぞ!」

「そんなの全部出鱈目に決まってんでしょ! 私はこう見えても恋に一途よ!」

「……一途なのか?」

「そうよ」

「そうか……」


 なら、良いと、シャサールは一人で納得する。


 と言うか、アルシェとの会話を聞いていて、最初に来る質問がそれってどうなんだ?


「ところで、何でシャサールがクローゼットの中に潜んでいたの……って、あ、そうだ! ヒカリ! ヒカリ知らない!? 白いエルフの女の子なんだけど、他のエルフに捕まっているらしくて……って、そういえばこの花畑って、スノウ姫とレオンライト王子の出会いの場じゃない? ねぇ、スノウ姫は? スノウ姫が今どうしているか知らない? ウィングが言うには、クマが助けに行ったから大丈夫だって……あ、ウィング! そうだ、アイツ、私がエルフの家に行く事、アースにチクったのよ! 味方だ何だとか言っていたクセに、結局は敵だったのよ! クソッ、ウィングめ! 後で絶対に、髪の毛全部毟り取ってやる!」

「お前は口を開けば、スノウ姫、スノウ姫、と喧しい女だな。他に言葉を知らんのか?」

「え、私今、他の言葉も喋らなかった?」

「あと、オレは敵じゃない。ちゃんと味方だ」

「え?」


 ふと第三者の声が聞こえ、キュアはシャサールと揃って視線を声の方へと向ける。


 いつからそこにいたのだろうか。

 視線の先では、緑のエルフことウィングが、困ったような眼差しをこちらへと向けていた。


「オレはちゃんと味方で、敵じゃない。だから髪の毛狙うのは止めてくれねぇかな?」

「ウィング!」


 はあ、と溜め息を吐きながら歩み寄って来るウィングを、キュアはギロリと睨み付ける。


 何が味方だ! 自分がエルフの家に行くって事、アースにチクったクセに!


「その情報を流したのはオレだ。アルシェに、キュアはオレを奪い返しに来ると言っておいた」

「えっ、どういう事!?」

「それより、キュアがクソビッチで、エルフ達をセフレにしていると言う話が嘘というのは本当か?」

「嘘って言ったでしょ!」

「キュアがクソビッチかどうかは知らないが、オレ達にだって選ぶ権利はある。だから、キュアがオレ達をセフレにしていると言う話は嘘だ。そんなの、オレ達の方から願い下げだ」

「そうか。なら良い」

「良くないよ! その言い方何とかしてよ!」


 何が願い下げだ!

 それこそ、こっちだって願い下げだわ!


「それよりそっちはどうなった?」

「ああ、かなり良い感じに進んでいる……って、そうか、お前はアルシェの兄貴だもんな。そう考えると、お前にとっては、良い感じとは言えねぇか」

「いや、良い。アルシェの口から真実を聞いてきた。お前達が良い感じと言うのであれば、それで話を進めてもらって構わない」

「そうか? それなら正直に話すけど、もうすぐ全てが終わりそうなんだ。心強い味方が出来たからな」

「味方? それは……」

「あ、あのー……」


 と、そこでようやくキュアが、おずおずと声を上げる。


 さっきから二人で話を進めるシャサールとウィングに、全く話が付いていけていない。

 と言うかこの二人、いつからこんなに親しくなったんだろうか?


「ごめん、私にも分かるように説明してもらえる?」

「ああ、そうか」


 一体何がどうなっているのか、全く分からない。


 しかし、一人置いてけぼりで首を傾げているキュアにハッとすると、ウィングはその真剣な眼差しをキュアへと向け直した。


「キュア、お前に紹介したいヤツがいたんだった」

「紹介したいヤツ?」


 この流れで何だ突然と、キュアは訝しげに眉を顰める。

 その点については、シャサールにとっても予想外の展開だったのだろう。

 彼もまた、キュアと同じようにして眉を顰めていた。


「ここはマズイ。アルシェやファイ達が追い掛けて来る可能性があるからな。場所を移動する。そこで待ち合わせているヤツがいるんだ」

「待ち合わせているヤツ?」

「ああ。オールと言う男だ」

「オール?」


 そんな人物、前世のアニメには存在していただろうか?

 

 初めて聞くその名に、キュアは更に首を傾げた。

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