第30話 全ては仕組まれていた

「酷い言い方するな。キュアが可哀想だろ」


 アルシェを殴った事に腹を立てたふりをしてキュアと別れた後、シャサールはすぐに緑のエルフと出会った。


 キュアとのやり取りを聞いていたのだろう。

 そのエルフは酷く怒ったようにして、シャサールを睨み付けていた。


「殴った事に関してはキュアにも非があるかもしれない。けど、あれはお前と逃げるために咄嗟に出た行動だろ。アイツも謝っていたし、そこまで怒る事はないんじゃないのか?」

「……兄上様は勘違いしている」

「兄上じゃないって」

「オレは……真実を知るためにアルシェのところへ行くだけだ」

「どういう事だ?」


 何か考えでもあるのかと、緑のエルフは眉を顰める。


 するとシャサールは、その目的を彼へと話した。


「オレはアルシェの兄だ。妹の事は守りたいと思う。けど、キュアに会ってから、次第に自分が分からなくなって来た。女王殺しの真犯人がアルシェだと認めたくない自分と、認めなくちゃいけないと思う自分がいる。そして、アルシェを殴ったキュアを許せない自分と、アルシェを殴ってまでオレを連れ出そうとしてくれたキュアに喜んでいる自分がいるんだ。な? どうして良いか分からないだろ?」

「……」

「だから真実を聞きにアルシェのところへ行く。女王殺しの犯人は本当にアルシェなのか、そしてキュアを狙った理由は何なのか、確かめに行く」

「そのために、キュアに冷たくしたってわけか?」

「そうなるな」

「何で冷たくした? そう言ってやれば良かっただろ」

「本当の目的を話して引き止められたら、オレはきっとキュアの傍にいる方を選ぶ。でもそれじゃ駄目だ。だから敢えて冷たくした。冷たく突き放せば、キュアはきっとオレを追っては来ない。それに万が一オレがキュアのところに戻れなくなったとしても、冷たく突き放しておいた方が、そのまま後腐れなく別れられるじゃないか」

「……。で、アルシェのところに戻ってどうする? 話でもするつもりか? 本当の事なんて話してくれないと思うぜ」

「それでもキュアのところにいたままじゃ、頭がゴチャゴチャするだけだ。何も分からない。駄目元でもアルシェのところに行き、状況を整理したい。それにキュアの家族であるエルフ達が突然襲い掛かって来た理由も知りたい。そのくらいなら、きっと教えてくれるだろ」

「アイツらもきっともう正気じゃない。エルフの仲間を一人殺そうとしたくらいだ。誰に何を聞いたとしても全部出鱈目で、本当の事なんか一つも教えてくれやしないさ」

「それでも……」

「一つ、オレに策がある」


 どうしてもエルフの家に戻ろうとするシャサールに、緑のエルフことウィングはそれを提案するべく、自分の知っている情報を彼に伝える。


 ある日突然、アルシェがエルフの家にやって来た事。

 キュアが誘惑の魔女に取り憑かれていると言い出した事。

 誘惑の魔女とスノウが手を組んでいる事。

 誘惑の魔女を祓うには、浄化の矢でキュアの胸を貫かねばならない事。

 そしてアルシェが逆らって来た白のエルフを、他のエルフを使って殺そうとした事……。


「白のエルフ殺しを止めた後、彼女は物置に閉じ込められた。オレは彼女の見張りをするふりをして、彼女から事情を聞いた。そしてオレ達は、お前達が庭で騒動を起こしている隙に、エルフの家から脱出したんだ」


 その後、何故かクマも付いてきたと、ウィングは付け加えた。


「ダークに追われていたから、スノウ姫達の方はクマとヒカリに頼んだ。そしてオレはお前らと合流し、状況を説明してからヒカリ達と合流する予定だったんだけど、お前がそのつもりなら一つ別の策がある。アルシェがキュアを殺そうとしているという事は分かるんだが、その理由が分からない。でもその理由も、お前が知りたいと思っている事も、一気に知る方法が一つある」

「何だ?」

「キュアとアルシェを対峙させるんだ」

「どういう事だ?」


 キュアとアルシェを対峙させる?

 それで何が上手く行くのだろうか。


「アルシェはキュアを殺そうとしている。殺そうとしているくらいだ、キュアに強い恨みを抱いているなどの相当の理由があるんだろう。キュアと二人っきりにすれば、その恨みも口にするんじゃないか? それにキュアだって、女王殺害事件の真相をアルシェに問い質したいだろう? 強い恨みを持つキュアと二人だけの状況下であれば、アルシェももしかしたら真実を口にするかもしれないぜ」

「その状況は、どうやって作り出す?」

「オレが何とかしてキュアをエルフの家に向かわせる。お前はアルシェやエルフ達に、キュアがお前を連れ戻すために、エルフの家に来るという情報を流してくれ」

「キュアがオレを連れ戻しに来る……悪くない設定だな」

「え、何?」

「何でもない。続けてくれ」

「キュアがシャサールを取り返しに来ると分かっていれば、他のエルフ達が黙っていない。おそらくキュアを捕らえようとするだろう。キュアはそんな情報なんか流れていないと思っているし、人数からしてもエルフ達の方が優勢。おそらくキュアは捕えられる。でもキュアとて先程の一件から、アルシェに恨みを抱いている。そして何故エルフ達がアルシェに付いているのかと疑問に思い、その情報を得ようとアルシェと二人での対談を望むハズ。キュアがそれを望めば、おそらくアルシェもそれに応えるだろう。だからお前は何とかして二人の対談に潜り込み、真実を聞いて、後でその情報をオレにも教えてくれれば良い。どうだ?」

「……試してみる価値はあるな」


 そして捕えられたキュアを王子の如く救出すれば、彼女もオレに惚れるかもしれない。一石二鳥だ。

 ……と、考えた事は黙っておく。


「南に行ったところに花畑がある。そこで合流しよう」

「分かった」


 そう計画を立てると、シャサールはエルフの家へと向かって走って行く。


 それを見送ってから、ウィングもまた、向こうで落ち込んでいるだろうキュアの方へと向かって行った。

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