第27話 狩人の独白
その話を聞かされたのは初めてだった。
一番近くにいたハズなのにそんな事にも気付けないとは、兄として恥ずかしい。
言われずとも気付いて、寄り添ってやるのが、真の兄と言うモノではないだろうか。
アルシェには不思議な力がある。
悪しき者を見抜ける力と、それを浄化する力。
そしてそれによると、キュアは誘惑の魔女に取り憑かれていて、オレを利用するためにオレに近付いたらしい。
「お兄様は騙されているんです! これ以上、魔女の言葉に耳を傾けてはいけません!」
そうか、オレは騙されていたのか。
アルシェがそう言うのだからそうなのだろう。
可愛い妹の言う事なのだ。
その言葉に嘘や偽りなどあるわけがない。
「魔女の言葉には邪悪な力があります。魔女は言葉を巧みに操り、お兄様のお心を掌握しているのです。魔女に操られてはなりません。お兄様、どうかお心を強く持って下さい」
そうか、オレは操られていたのか。
キュアに強く惹かれて彼女の力になりたいと思ったのも、スノウ姫に嫉妬しているのも、彼女を側に置きたいと思っているこの感情も、全て魔女に植え付けられた偽りの心だったんだな。
「魔女は倒さなければならない相手。そしてそれは、私の浄化の矢で倒す事が可能です。ですからお兄様、どうかアルシェに力をお貸し下さい」
当たり前だ。
お前に頼まれて嫌なわけがない。
オレが魔女から、お前も世界も守ってやる。
……そう言って、オレは妹の言葉を全て鵜呑みにするべきだ。
だってそうだろう? 実の妹ではないとはいえ、アルシェは幼い頃からずっと一緒にいた妹なのだから。
信用し、力を貸すべきなのは妹の方だ。
間違っても、昨日会ったばかりの女の方じゃない。
「アルシェ、実はキュアはもうすぐここに来る。オレがアイツの手を振り払ってここに来る時に、必ずオレを奪い返すと叫んでいたんだ」
「まあ、そんな恐ろしい事を! 大丈夫ですわ、お兄様。お兄様は必ず私がお守りします」
「ありがとう、アルシェ。やはりお前は、オレの最愛の妹だ」
そう言って頬を撫でてやれば、アルシェは照れ臭そうにはにかみながら、薄っすらと頬を染める。
(そう、見えていたハズなのに)
そうだ、今までならそう見えていた。
それなのに何故だろう。
アルシェが浮かべる愛くるしいその笑みが、どう言うわけか下卑た笑みにしか見えなかったのは。
(おかしいのはオレか、それとも……)
キュアの手を振り払い、彼女の下を立ち去った時の事を思い出す。
悲しそうに揺れる、彼女の切なそうな瞳。
呼び止めようとして言葉を詰まらせた彼女のその表情が、どうしても頭から離れない。
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