第4話
ふわふわとした空間の中でエスティアの元の身体の持ち主の記憶を見た。
物心が付いた頃から私が憑依する直前までの記憶が、まるで1本の映画のように流れて行く。
驚いた事に、エスティアはエルフと言われる種族の母と、人間である父親との間にできた子供らしい。
……だが父親にはエスティアの母親とは別に正妻がおり、エスティアは私生児なのだと酷い扱いを受けていたみたいだ。
それを許さなかったエスティアの母親は、独自に開発した魔法で正妻を病気に見せかけて殺めた。
父親の方にも魔法をかけ虐げた挙句に正妻同様病気に見せかけて殺したらしい。
しかもその際には爵位をエスティアに継がせられるよう手続きまで済ませていたのだ。
そんな母親も魔力を使い果たした挙句に魔力の暴走を起こし他界している為、エスティアは今まで天涯孤独の人生を送っていたみたいだ。
この一人しか住んでいないのに広すぎる屋敷をみるだけでもあまりにも寂しいのに、エスティア本人は今までどうやって暮らしていたのだろうか。
(まさかエスティアがこんなに昼ドラよりも怖い人生を送っていたうえに一人で過ごしていたなんて……同情しちゃうな……。)
その後の記憶を辿りつつ他の人達との関係も垣間見ていたが、エスティアはどうやら何をしても裏目に出るらしく、それはそれは怖がられているようだった。
迷子になっていた子供に笑いかけたつもりが泣かれて逃げられるなんて事もあったらしい。
そんな記憶を見せられたら流石に泣けてくる。
「__エスティア様、大丈夫ですか?」
まだ覚醒しきれていない意識の中、ふと声をかけられ、そちらの方を向く。
声の主は先程厨房で見た少年だ。何故か少し驚いたような顔をしていたので不思議に思っていると、自分が泣いている事に気が付いた。
あまりにも寂しくて悲しい夢を見せられたものだから自然と涙腺が緩くなっていたのかもしれない。
「エスティア様?」
「……あ、えぇ、大丈夫よ。迷惑をかけたわね」
倒れたのは厨房だったのに今は寝室にいるという事は、この子が運んでくれたのだろう。
ありがとうと声をかけると少年は慌てたように頭を下げ始めた。
「いえ自分は執事なのでこれくらいは当然です。むしろ主である貴女の体調管理が疎かでした。申し訳ございません」
深々と頭を下げる少年にどう声をかけて良いのか分からず、思考を巡らせていると、先程見た記憶の中では少年の姿はあれど、名前を聞いたり呼んだりした事がない事に気が付いた。
どうせ関わりを持とうとしても怖がらせてしまうという、エスティアなりの諦めだったのかもしれない。
ここはこの雰囲気を変える為にもエスティアの代わりに勇気を出してみようと思う。
「私の不注意なのだから謝罪は要らないわ。…………そんな事よりわたくし、あなたの名前を知らなかったわね。聞いても良いかしら」
私の言葉に驚いた様子でパチパチと瞬きを繰り返し、まるで知らない人でも見るかのような探りを入れる視線に耐えつつ、私は自分の表情筋を奮い立たせる。
しばらくすると少年は腑に落ちない様子ではあったがゆっくりと口を開いてくれた。
「 ……キアンです」
「そう、キアンというのね……教えてくれてありがとう」
また少年は驚いた様子でこちらの様子を伺っていた。
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